我が儘社長と不器用な2回目の恋を
32話「繋がった過去」





   32話「繋がった過去」





 ★★★



 夕映が部屋を出ていった後、南は残ったケーキを呆然と見つめていた。

 ずっと心に閉まっていた過去の記憶。けれど、夕映に会うために罪悪感からからその扉を開けてしまい、どうしようもなく不安になり、そして自分が情けなくなっていた。

 夕映はとてもいい友達だ。
 けれど、大学の頃は南自身が幼く、恋愛に対して自分中心になってしまっていた。そして、悲劇のヒロインのように絶望していた。

 夕映は大学でも有名な美人の社長令嬢として有名になっていた。それなのに、隣に居る自分は可愛くもないし、お金もない、少し頭がいいだけの女だ、南はそう思っていた。それでも、嫉妬しないで友達になれる人だとわかったときは嬉しかった。
 彼女と過ごした時間は、勉強ばかりしていた南にとって、とても新鮮な存在だった。そして、大切な友人として、仲良くしたいと心から思っていたのだった。
 
 けれど、彼女が好きだった人が同じだった時から、少しずつ感情がぐじゃくじゃになってきたのだ。

 そして2人は恋人になった。
 大切な友達と、大好きな男の人。
 それが一気に失われた。

 その寂しさを埋めるために、斎が欲しいと強く思うようになった。
 誰かに愛してもらえれば、寂しくない。きっと、自信が持てる。
 そんな風に思っていた。

 けれど、斎は自分を選ばなかった。
 そして、自分の貪欲な言葉で、愛しい人から嫌われてしまった。
 そして、友達も失う。

 そう思っていた。


 けれど、愛しい人はずっと変わらなかった。
 自分の好きな人は、自分を叱ってくれる人だった。夕映に言われて、そうなのだろうと南も素直に思えた。
 そして、夕映は裏切りとも言える行為をした自分を許してくれた。「またね。」と言って、友達で居てくれたのだ。


 「あー……この2人は敵わないな。」


 一人になった部屋でそう呟いた。
 涙が出そうになる。けれど、それは悲しみじゃない。安堵と感謝の涙だった。
 けれど、そんな気持ちに浸っているわけにもいかない。


< 132 / 147 >

この作品をシェア

pagetop