我が儘社長と不器用な2回目の恋を



 「………確かに見ていたけど……ただ懐かしくなって見ていただけよ。」
 「……おまえ、顔真っ赤だぞ?」
 「っ!お酒のせいよっ!」
 「そうなのか?」


 クククッと笑い、全く信じていない様子の斎に目を奪われた。
 その微笑みは昔と同じだった。
 恋人の頃に向けられた、普段の綺麗だけれど作られた顔ではない、普通の人と同じ目を細めて口元も弧を描き頬を少し染める、そんな笑顔だ。


 「ん?どうした?」


 ぼーっとしたままその顔を見つめていたからか、斎は不思議そうに顔を覗き込んできた。一気に距離が近くなり胸がドキリとした。


 「変わらないなって思って。」
 「何が?」
 「……斎のその笑い顔。小さい時のままだね。」

 
 動揺してしまっていたからだろうか。
 自分が思っていたことが素直に言葉になっていった。
 斎は少しポカンとした顔をしていたけれど、すぐに優しい微笑みを見せた。


 「それは、おまえがそうさせるだろうな………。」
 「え……。」
 「いや、何でもない。そういえば、お前の好きだった洋書のシリーズ発売になったな。」
 「あ、もしかして白の剣シリーズ?今回も面白かったよね。」
 「あぁ。ほんと、お前は本が好きなんだな。」
 

 恋人になる前から、斎とは読書仲間でもあった。本好きは沢山いるけれど、洋書となるとあまり周りにはおらず、夕映は斎とよく洋書の話をしていた。

 そして、今再会してもその話しはつきることはなく、先程ぎくしゃくしていた雰囲気が一転して、学生の頃のように話をすることができた。
 同じ趣味だった事に感謝しながら、元恋人だけれども普通の友達に戻れているのに、夕映は安心もしていた。



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