我が儘社長と不器用な2回目の恋を
13話「燻った香り」





   13話「燻った香り」




 「ふぅー……気持ちいいなぁー。」


 夕映は、何故か斎の実家のお風呂に浸かっていた。
 来客用の風呂場らしいが、とても大きくて綺麗だった。小さな温泉のような環境を独り占め出来るので、ここのお風呂は夕映のお気に入りだった。

 本当ならばシャワーで済ませる予定だったが、九条家の使用人である神楽がお風呂を準備してくれていたのだ。
 夕映がお風呂好きだという事を覚えていてくれたようだった。しかも、しっかりとバラの香りがするお風呂になっていた。こういう配慮が出来るのが一流の使用人なのだろうなと思ってしまう。
 神楽に感謝をしつつ、気持ちよくお湯に浸かっていた。



 肩までしっかりとお湯に浸かりながら、考えるのはもちろん斎の事。
 彼はまっすぐ自分の気持ちを伝えてくれる。彼が忙しいのはわかっていたけれど、それでも彼なりに時間を作って会いに来てくれる。そして、自分の気持ちのままに、「恋人」になって欲しいと伝えてくれるのだ。
 
 彼の素直な気持ちに答えなければいけない。
 それが、「はい。」でも、「ごめんなさい。」であっても。
 その答えを決めるためには、彼に聞かなければいけない事がある。


 「逃げないで、ちゃんと話を聞かないと………。」


 夕映は湯船から立ち上がり、お風呂場から出た。いつまでも、彼の優しさに甘えてぬくぬくしていてはだめなのだ。
 次に彼に会ったら、ちゃんと話しをしよう。そう決めて、脱衣場で着替えをしていた。

 ふわふわのタオルはとてもいい香りがして、ただ体を拭いているだけなのに、鼻唄を歌ってしまいそうなぐらいに、心地のいい気分にさせてくれた。

 すると、廊下で微かに足音が聞こえた。
 誰かが此方に向かってくるのだろうか。けれど、この風呂場には夕映がいると知っているだろう。大丈夫だとわかっていても、何故か嫌な予感がした。


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