おじさんは予防線にはなりません
第1章 新しい派遣先


四月から派遣された会社は、とても……とても問題の多い会社だった。

「ねえ」

聞こえた声にこわごわ振り帰った先には、村田(むらた)さんが腕組みして立っていた。

「ポケットファイル、十冊申請した奴、まだもらってないんだけど」

第二ボタンまで外されたレーヨンのブラウスは、手を腰に身体を倒すと下着が見えるんじゃないかなって心配になってくる。

「その。
……一昨日渡しましたよね」

おずおずと見上げた瞬間、ぴしっとアイライナーの引かれた目がじろりと私を睨む。
途端に身体がぴくんと跳ねて、椅子の上で姿勢を正してしまった。

「申請書は出したよね。
なら文句ないでしょ?」

ぐんと顔を近づけられ間近になった村田さんの耳で、大きなフープのピアスが揺れた。
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