『スーパームーン』 ー マスター編② ー
第1話 探偵稼業

古書店の店主は無口だった。

挨拶した時も
「ああ」と言って俺の顔をチラッと見ただけで直ぐに読んでた本に目を戻した。

深い皺と落ち窪んだ目が多くの修羅場を経験してきた事を物語っている。

近寄りがたい雰囲気を持っている。

俺はこの爺さんに興味をもったが仲良くなるのは難しそうだ。

マサはこの店の二階で暮らしている。

マサと爺さんの関係は知らないが、かなり親密な間柄である事は分かった。

爺さんの座っている奥に細い急な階段があり、上がった所に広い和室がある。

マサがこの部屋に人を連れてくる事は滅多にないらしい。

部屋は予想通り汚なかった。

乱雑に積まれた本の奥に大きな机があり、奥にこの部屋には似つかわしくない電子機器が多くある。

マサは座布団らしき物を二、三度手ではたくと俺の前に置いた。

俺は苦笑しながら座る。

「さてどうする? 拳ちゃん」とマサがさっそく聞いてきた。

「俺が潜入するしかなさそうだな」と答えた。

俺とマサは今大きな依頼を受けて組んで仕事している。

難しい仕事だ。

マサは情報屋だ。

どんな情報でも手に入る。

業界では知られた存在だ。

気に入った仕事しかやらないと言う偏屈な男だが、何故か俺は気に入られている。

「でもそれは、余りにも危険過ぎるよ。拳ちゃん、命の保証は出来ない」

マサは情けない顔をして俺を見つめた。

「心配するな。俺がやらないとまた泣く女が増える」

「あ〜あ、拳ちゃんは女には優しいからな」

「馬鹿言え。俺は男にだって優しいさ。悪い奴以外はね」

「でも、あそこには悪い奴しかいないよ」

「だから俺は容赦なく鬼になれるんだ」と俺はニヤリと笑ってやった。

依頼の内容はこうだ。

1 ある違法カジノ店を摘発してぶっ潰す。

2 経営者を刑務所に送る。

3 このカジノ店と結託している警察関係者を告発する。

しかし、マサの情報に拠ると並大抵の事では難しいと言う。

1 店は用心深く慎重で信用出来る客しか入れない。

2 経営者は滅多に顔を出さない。

3 店と結託している警察関係者はかなり上層部の人間らしく、下手すればこっちが刑務所行きだ。

「まずは店に入る事だが、その手筈は出来てるんだろ?」と俺はマサに聞いた。

「うん。俺の幼馴染の吉田って奴がその店の常連だった。話はつけてあるから入る事は出来るが問題はその後だよ。」

「問題って?」

「吉田が言うには、表向きは届け出の出ている合法カジノバーで信用出来て金を持ってそうな客や金に成りそうな女だけを奥の秘密のカジノに誘うそうだ。吉田は金が無いから誘われた事はないらしい」

「ふーん、だったら俺は金持ちになれば良いんだな」

「金持ちになるって?どうやって?」

俺はそれには答えず
「さっそく吉田に連絡して都合を聞いておいてくれ」と言って俺は部屋を出た。

階段を降りて本を読んでた爺さんに挨拶すると
「お前は何か武道をしているのか?」と突然聞かれた。

「いえ、武道はしていません。ボクシングを少々」と答えた。

爺さんは俺を見つめ
「そうか」と言ったきり又本に目を落とした。

店の外に出るとあの日と同じ大きな月が出ていた。
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