次の日。

津田から連絡を受け弥生は初出勤をした。

白いブラウスに黒いパンツ。
それに支給された紺色のエプロンを身につけ名札を付けた。

身支度を済ませた弥生が事務所に姿を見せると、在庫整理をしていた白衣姿の津田が歩み寄り、左右の後台と静に気付かれないよう、アイコンタクトを弥生に送る。

弥生が戸惑いながら、頭を下げた。



「改めて自己紹介します。店長の津田啓介(つだ けいすけ)です。家族は息子がひとりいます。販売は初めてだったんですが、やってみたら面白くて。続けて働いています」


にこやかに津田は云った。


「私は他店と差別化しています。よそではないものを売ります。ここにくれば買える。そういう店づくりをしています」


弥生を見る。


「野上原さん、あなたはとても感じが良い。お客様の心を掴むには持ってこいの人材です。私はあなたを販売員として戦力になるように指導しますから、そのつもりで。よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」


弥生は再び頭を下げる。
津田はトーク力のある、リーダー資質の男だった。


「僕は後台 篤(ごだい あつし)です。薬剤師をしています。薬の他に衛生用品と、健康食品を担当しています。よろしく」


津田より少し背が高い色白の男が、にこやかに挨拶をする。
どことなく上品さの漂う男だった。


「わたしは静 京香(しず きょうか)です。化粧品とビューティー担当です」


黒髪に大きな丸い瞳が可愛らしく、身長は低く華奢で幼く見えるのだが、白衣の上からはち切れんばかりの豊かなバストが見事な女性だった。
日焼けした肌が健康的で美しい。

津田は四十才、後台は三十八才、静は三十五才。
四十三才の弥生は一番年上の新人となった。

主な従業員は三人。

朝や昼間だけのアルバイトもいるようだが、時間が違うため弥生とは重ならないようだ。

津田が口を開く。


「あと医薬品の販売資格、登録販売者も取れるから。後台くんは薬剤師だから必要ないけど、私と静さんは持ってます。野上原さんも試験、受けてみようか。夏か秋ごろにテストがあるから、今から勉強すれば間に合う」

「そうそう。勉強しないと受からないよ。津田さん、舐めてかかって一回、落ちたからね」


静の棘に津田は苦笑いをする。


「うん、そうなんだ。だから勉強してね。費用は店持ちだけど、落ちたら自費になるから」

「わかりました」


弥生は頷く。

津田でさえ落ちたという試験を、勉強も久しい自分が合格することが出来るだろうか。


説明は続き、次は五大接客用語だ。

いらっしゃいませ。
ありがとうございました。
少々、お待ちください。
またお越しくださいませ。
申し訳ございません。
お大事になさってください。
等々。

これは働く店舗や会社によって変わってくる。

弥生の働くドラッグストアは、お大事になさってください、など労るような接客用語を推奨されている。


「音読してから店に出るようにして下さい。みんなそうしてますから」



サマザマな不安が湧き起こるが、それからはレジ操作について、スタンプカードについて説明を受ける。

イントカードの他に店専用のスタンプカード、商品キャンペーンのスタンプカード。

レジ周りで配るカードだけでも十種類はある。