弥生の夫、野上原和人は衣料品メーカーの製品開発をしているが、今は特殊繊維を練り込んだ新製品開発に着手している。

ようやく御披露目出来る段階になり、今日はそのプレゼンテーションを行うところだった。

会社に認められれば更に助成金を申請でき、開発部の株も上げることができる大事なイベントだ。

パソコンとプロジェクターの準備を念入りに行い、資料を会議室のテーブルに人数分並べる。
会議が始まる前だが若い男社員は緊張で顔色を青くし、体を強ばらせていた。

一応、和人も上役だが早くに訪れ管理を行う。

緊張がほぐれない若い社員に苦笑し背中を軽く叩いた。



「しっかりしろ。よく見せようと思うな。いつも通りにやればできる」



和人は傲慢な管理職というわけではない。
どちらかというと部下に人気のあるタイプだ。



「野上原部長」
「鴻江(こうのえ)課長」



社長御一行が訪れる前の時間である。
スーツ姿の中年の男が近づいて来た。



「野上原部長が会議の前に激励して下さるおかげで、若い連中も安心しているようです」



鴻江は和人と同じ年齢の四十五才だ。

身長は和人よりは低いが一七五センチくらいはある。

大学を卒業し新入社員として入社し二十三年。
和人は部長に鴻江は課長に昇進したが彼は到底、納得できていない。

鴻江はとにかく大胆で、どんな企画も自分が気に入れば強引に押し通そうとする。

そして自分に順従で実力よりもコミュニケーション能力の高い人間を贔屓にするような男であり、和人とは真逆で部下にはまるで人気がなかった。


鴻江は慌ただしい部下を眺めながら口を開く。



「会議の前ですがね。近頃、総務課が騒がしくて」
「なんだ?」
「不倫が囁かれている女子社員がいるんですよ」