似非王子と欠陥令嬢
異文化交流も大切です
今日も朝からレオンがやってくる。

恒例すぎて既にノックさえしなくなっていた。

「はー涼しー!
『えあこんでぃしょなー』はやっぱ最高だな!」

外が暑かったのか首元をパタパタ仰いでいる。

王宮から塔までの間に汗をかいたのか額を汗が流れていた。

「確かにここは天国だな。」

後から入って来たリアムも手の甲で顎に伝った汗を拭っている。

「ほんと。
王宮に戻ろうと思えないよね。」

バスルームから髪を拭きながらルシウスも出てくる。

本格的な夏が来てこいつらは完全に塔に入り浸るようになった。

夜はさすがにリアムとレオンは戻って行くが隙あらば塔に泊まろうとするレオンを毎日ルシウスが追い払っている。

いやお前も帰れやと言いたい。

でも言えない。

キャロルはしがない一貴族でしかないのだ。

王族には逆らえない憐れな仔羊なのである。

離宮の令嬢達も週始めには夏季休暇の為全員実家に帰省したらしい。

キャロルは毎年帰省しない為関係のない話だが。

人が減り婚約者候補達との交流もお休みとなったルシウスは完全に避暑地としてキャロルの塔を扱っていた。

荷物も大量に持ち込み3食塔で食事をし執務の書類も塔に届けられ毎晩毛玉に枕を取られながら寝ている。

文句は言うまい。

既にキャロルは諦めの境地に至っていた。

夏季休暇は2ヶ月もあるのだ。

文句を言って2ヶ月虐めに合うよりも大人しくやり過ごすに限る。

「あっそう言えばこれ届いてたぞ!」

レオンがニコニコと封筒を開ける。

「空きがあって良かったですね。
時期的にもう無理かと。」

中身は客船の予約番号が書かれた乗船券4枚であった。

静流の遺跡に行くには海を越えるか大きく迂回して陸路を行く方法の2種類があるのだがレオンの強い希望で海を渡る事になったのだ。

レオンは船に乗りたいだけだとは思うが迂回するよりも短時間で着く為キャロルも文句はない。

ただ注文したのが夏季休暇の時期だった為予約が出来るのかが不安だったが奇跡的に間に合ったようだ。

まあ恐らく奇跡ではなくルシウスの名前で予約した為忖度ってやつが仕事をしただけだと思うが。

何はともあれ旅の準備は着々と進んでいた。

「なんか夏休みに冒険って言葉の響きだけでワクワクするよな!」

「まだ1週間先なのに今からはしゃいでどうする。」

リアムに窘められているがレオンの目はきらきら輝いている。
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