似非王子と欠陥令嬢
まずは挨拶を頑張りましょう
「やぁおはようキャロル。」

「…おはようございます。」

目が覚めたら目の前に天使がいた。

何度目だろうこの展開は。

慣れ始めている自分が怖い。

ソファーから体を起こし寝ぼけ眼で周りを見渡す。

古びた事務机、撒き散らされた羊皮紙、石造りの壁。

間違いなく住み慣れた自分の部屋だ。

「キャロルも女の子なんだからちゃんと鍵をかけた方が良いと思うよ?
危ない人もいるんだからね。」

こんな寂れた塔にやって来て勝手に部屋に入ってくる様な危ない人間はこいつしかいない。

1番危険なのはこいつじゃないのか。

そう言いたいが一応敷地の外れとは言え王宮内に住まわせて貰っている身分だ。

口には出さず半目でルシウスを見るにとどめておいた。

「おーい殿下ー。
キャロル起きたかー?」

「あっ今起きたよ。」

「りょうかーい。
早くしろよー。」

塔の中で反響し間延びしてレオンの声が聞こえる。

どうせレオンの事だ。

階段を上がるのを面倒くさがって下で待っているのだろう。

「レオンは私が下で待つように言ったんだよ?
さすがに嫁入り前の寝ている女の子の部屋に入るのは良くないからね。」

やっぱりこいつはエスパーなのか。

いやそもそもその台詞をどの口が言っているのか。

現在進行形でそれをやらかしている人間が何を言うのか。

「さっキャロル。
朝ごはん食べに行こうね。」

「いやあの着替え…」

今日は婚約者候補の顔合わせだったはずだ。

さすがに寝巻き代わりのヨレヨレの綿シャツと旅支度で買った麻のズボンで行くのは怒られるだろう。

それに旅行前に受け取った依頼書もまだ見ていない。

1週間前の物だから一応目を通しておくべきだろう。

そう訴えるとルシウスはちょっと考えて頷いた。

「分かった。
依頼書ってこの束かい?」

「えっそうですが。」

「じゃあこれは持って行こう。
着替えは心配しなくて良いよ。
ほら立って。」

「いやせめて顔を洗わ」

せてまで言う前にルシウスの肩に担がれる。

所謂俵担ぎである。

「は?
ちょっ下ろして」

「口閉じないと舌噛むよ?」

そう言われ慌てて口を閉じる。

キャロルを担いでいる癖に優雅に階段を降りるこいつは本当になんなんだろう。

下まで降りると欠伸を噛み殺しているレオンがいた。

「あれ?
キャロルまだ筋肉痛なのか?」

やっぱりこいつはバカだと思う。
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