似非王子と欠陥令嬢
次はお友達になってみましょう
目が覚めると同時に腰に痛みが走る。

あのまま硬い事務椅子で寝てしまったらしい。

背中が凝り固まってしまっている。

「…やば。」

まだインクの乾いていない羊皮紙に頬をベッタリ押し付けて寝ていた事に気付いた。

確実に愉快な頬になっているだろう。

キャロルは溜め息を着いて椅子から立ち上がりチェストに向かう。

チラリとベッドを見ると掛け布団が丸く膨らんでいる。

ルシウスはまだ寝ているらしい。

キャロルは足音を立てない様にバスルームに足を進めた。

バスルームの小窓を少し開けると遠くで鳥の囀りが聞こえた。

爽やかな朝である。

今日は2件の魔道具の納品日だがもう納品書を書くだけだ。

書き終わったら昨日見た王都の市場に行くのも良いだろう。

チラッと見えた色とりどりの飴細工を食べてみたい。

キャロルは今日の予定を考えながらシャワーを浴びる。

目覚めは良くなかったがこの予定なら今日は良い日になりそうだ。

少し機嫌を良くしながら体に着いた泡を流しシャワーを止めた。



「でっ殿下!!??」

「…なにごと?」

誰かの甲高い声が塔中に響いた。

殿下と言っていたからルシウスに何かあったのだろう。

もしやキャロルが殺る前に他の誰かに殺られたのだろうか。

あの性格なら他でも恨みをかっていた可能性も高い。

キャロルは不謹慎な事を考えながらシャツを急いで被りバスルームを飛び出した。

口元を手で覆っているメイドとバッチリ目が合う。

これは本当に暗殺か…。

事情を聞こうとしたがキャロルと目が合ったメイドは顔を真っ赤にして部屋を飛び出して行ってしまった。

「女官長ーー!!!
さっ宰相様と陛下にご報告を!!!」

塔の中をよく響く声がエコーを掛けながら遠ざかって行ってしまう。

「…なにごと?」

「昨日言ったでしょう?
お祭り騒ぎになるよって。」

キャロルの独り言に寝起きのルシウスが気だるげに答えた。

残念ながら生きていたらしい。

そう言えば昨日そんな事を言っていたような気もする。

「…とりあえずキャロル。
髪はちゃんと拭こうね。」

慌てて飛び出した為タオルも掛けておらず肩がびしょびしょになっているキャロルにルシウスがタオルを手渡した。

ルシウスはそのまま慌しくなる前に自分もシャワー借りるねとバスルームに行ってしまう。

先程立てた予定が全く叶わないであろう予感にキャロルは遠い目をした。
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