甘い罠に囚われて
いつでも待つのは…



「そのグロス、いい色だね。」



玄関先で彼はそう言うと私の頬に手を添えた。

いつだってひんやりとした彼のその手はゆっくり顎先へと滑ってゆき、私の顔を自然に上向かせる。

私はただ彼を見つめるだけでされるがままだ。

「消しちゃうの勿体無いね。」

本当にそう思ってる?

と言いたくなるくらい軽い調子でそう言うと私との距離をすっと近付ける。

けれど、

彼の唇は私の唇に微かに重ならない位置に下ろされる。

頬でもなく唇でもなく。

「これだとグロス取れないでしょ。」

満足げに言う彼に私は不満足な顔を目一杯向ける。

そうすれば彼が喜ぶのを分かっていても。

それでも意地悪な彼は私にそれ、を与えてくれない。

ーーーー今度、来た時にゆっくりね。

「っ…」

耳元で甘く囁くと軽く耳朶を噛んだ。

そして、

私は玄関先に一人残された。

< 1 / 24 >

この作品をシェア

pagetop