プラチナの景色
波の彼方へ



都会の空にしては珍しく、月が冴え冴えと美しい夜だった。

雨上がりの空は、湿気を含んではいたが夕方までの雨雲は消え、闇を照らす明かりが眩い。

明日は良い天気になるだろう、ドレスの裾が濡れなくてすみそうだなどと、自分が心配することでないのはわかっていたが、 彼女には大事な日を晴れやかな顔で過ごして欲しくて、そんなことをつい思ってしまう。
 
たとえ、それが他の男の妻になるためのウェディングドレスであっても。



「明日は晴れそうですね」



夜の高速道路を確かな運転で走る老齢の運転手は、僕の心を覗いたような言葉を漏らした。

仕事に忠実で、決して個人的な部分には踏み込まない彼が、僕の気持ちを確かめる言葉を口にことがある。

あの日、彼女の背中を長いこと見送り車に戻ると、運転手は前を向いたまま、こう告げた。



「このままでよろしいのですね。」


「えぇ、自分で決めたことですから……」



僕が彼女に心を残していることを、彼だけは知っていた。

その彼に、彼女への贈り物を託した。



「関さん、明日はお願いします。面倒なことを頼んですみません」


「いいえ……雨も上がったようですし、佳い日になるでしょう。

専務もたまにはゆっくりされる時間が必要です。では、明後日お迎えに上がります」



余計なことは何も言わず、彼女が他の男と式を挙げる教会へ、花束を運ぶ役目を引き受けてくれた。


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