もうひとりの極上御曹司
結婚しよう

長年千春を溺愛し続けている緑だが、ときには度が過ぎ千春が言葉を失うほどの愛情を向けることがある。

『娘がいればしてみたかったの』

そんなことを言いながら、百貨店の外商がラックごと木島邸に運び込んだ大量の洋服を次々と千春に試着させてはまとめて購入し、千春の自宅に送りつけたこともあった。

千春は次々と家に運び込まれる品々に言葉を失ったが、「母さんの夢だったんだ。付き合ってやってくれ」と愼哉に説得され、渋々受け取った。

そのときの服の中には二年が経った今もまだ着ていないものがたくさんあるというのに。

「え、なに……これ」

千春は目の前に整然と並ぶ洋服に目を丸くした。

木島家の離れ……離れとはいえ二階建てのかなり広い8LDKの建物の中の一室に用意されていた千春専用だというウォークインクローゼットには、季節ごと、アイテムごとに揃えられた洋服や靴がずらりと並んでいたのだ。

「これって、何人分の洋服ですか」
「もちろん千春ひとりの洋服だ。千春がいつ泊りにきてもいいように母さんが張り切って用意したんだけど、ちょっと多いか?」

あっさりと答える愼哉に、千春は肩を落とした。

「ちょっとどころじゃない……」


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