現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
誘惑の密談
部屋に入って、きっちりと扉を閉める。

本当は妙齢の男女が同室にいる場合は疚しくない事を証明するために少しだけ扉を開けておくのがマナーなのだが、今はそんな事は言ってられない緊急事態だ。誰にも覗られないように鍵まで閉めた。

「説明、してくれるのよね?」

ちょっと口調か硬くなったのは父への罪悪感が拭えなかったからか。あんなに喜んでいたのにいつかは嘘だと告げなければいけないと思うと、その時にどんな悲しい顔をさせてしまうのかと今から胸が苦しくなっている。

グレースのそんな気持ちが理解出来るのか、ヴェネディクトも真摯に向き合ってくれた。

「勿論。でもその前に座ろうか」

その言葉で、グレースは初めて自分が両手を体の横でぐっと握りしめていた事に気付いた。どうやら思いのほか気が張っていたらしい。
< 30 / 124 >

この作品をシェア

pagetop