愛は貫くためにある
佐久間はー佐久間 和哉はカウンター席に座ったが、項垂れてしまった。
「あらあら。しっかりしなさいよ」
「姉さん…僕…」
「大丈夫よ。すぐ仲直りできるから」
「そうかなあ…」
理沙子はとても優しかった。
一方の莉子はというと、
「かずにい、あんな子がタイプなの?まじでどうかしてんじゃないの?あんなブス女」
「こら!莉子、なんてこと言うの」
「だって、そうじゃん。りさねえもそう思うでしょ?」
「あの子はとても優しそうで可愛い子じゃない」
「そうなんだよ。優しくて可愛いんだよ、麗蘭ちゃんは」
和哉は笑った。
「あの女のどこが良いのよ」
莉子がそう言い捨てると、和哉は莉子の肩を掴んだ。
「莉子!いい加減にしないか!今度麗蘭ちゃんを馬鹿にするようなことを言ったら、いくらなんでも許さない。妹でも容赦しない」
莉子は文句を言いたくなったが我慢した。こだわりの強い和哉のことは、よく理解しているから何も言っても無駄だと、そう思った。

「はあ…麗蘭ちゃんに嫌われたらどうしよう」
「大丈夫よ、和哉」
「姉さん…」
「和哉。ずっと、どこをふらついてるのかと思ってたけど、ここに入り浸ってたのね」
まあね、と和哉は笑った。
「あの子のこと、好きなの?」
「うん……好き」
「頑張りなさいよ。応援する」
理沙子は、和哉の背中をびしっと叩いた。
「ありがとう、姉さん」
和哉は溜息をついた。
「随分深い溜息ねえ」
桃が静かに言った。
「ええ、まあ。麗蘭ちゃんが前、僕の絵をもっと見たいって言ってくれて。それで、前に書いた絵を見せたくてスケッチブック三冊持ってきたんですけど」
「ええっ!?そんなに!?」
桃は目を見開いた。
「ええ、たくさん見てほしいなって。…でも、麗蘭ちゃんに見せる前にこんなことになっちゃったから」
和哉は、鞄からスケッチブックを三冊取り出した。
「本当に三冊…」
春彦も前のめりになって和哉の目の前にあるスケッチブックを見た。
「見せたかったのにな…」
和哉は、スケッチブックを手に取り唇を噛んだ。
「まあ、また今度来た時に見せればいいだろ」
「春彦さん…」
「元気出せよ。麗蘭ちゃんだって、いつまでも怒ってるわけじゃないから」
「そうですね。…また、日を改めて来ます」
「ねー、かずにい、頼んでもいいんでしょ?」
「いいよ」
「じゃあ私は、ホットケーキ!」
「莉子…この時間にホットケーキって」
「悪い?」
「…どうぞご自由に」
理沙子は溜息をついた。
莉子のご機嫌な声が辺りに響いた。
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