愛は貫くためにある

妖精の苦悩

麗蘭は、和哉と交際をスタートした。しかし、本当に自分が和哉と交際してもいいのかという不安はつきまとった。

「かずくん」

麗蘭が小さく和哉を呼んだ。

「ん?なーに?」

和哉はとても嬉しそうに、後ろにいる麗蘭を振り返った。
麗蘭は和哉の家に遊びに来ていて、今和哉の部屋にいる。和哉が机に向かっているすぐ後ろに、麗蘭はいた。
「何をしてるんですか?」
「ん?ああ」
麗蘭が和哉を見ると、和哉はにこっと笑った。
「あっ、絵を書いてるんですね」
麗蘭が、和哉の机の上にあるスケッチブックを見て言った。
「ああ、そうだよ」
「すごい…」
「そうかな?」
和哉は照れ笑いを浮かべながら、麗蘭を見た。


「かずくん、ねえ、かずくん」

麗蘭の、鈴のような綺麗な声が響いた。

「……」

和哉は、一旦集中するとなかなか現実には戻ってこない。ひとたび没頭してしまえば、声も聞こえないほどに集中して余計なものをシャットアウトしてしまう。

「かずくん…ねえ」

麗蘭は和哉にかまって欲しくて、和哉の腕を掴んで揺すった。
「麗蘭…!揺らすなよ!ほら、せっかく書いてたのに手元が狂ったじゃないか!」
和哉は眉間に皺を寄せて、麗蘭を叱った。
「ご、ごめんなさい……悪気はなかったの」
「はあ……集中力切れた」
「ご、こめんなさい、わたし…」
「あのさ、今僕は集中してるわけ。わかるよね?邪魔すんなよ…」
その時、麗蘭はずきんと頭から雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
麗蘭は目を見開いて、少しの間立ち尽くしていた。


麗蘭は、しゅんとして静かに和哉の部屋から出た。すると、すぐに誰かとぶつかった。顔を上げると、麗蘭を見下すようにして軽蔑の目を向けている莉子が立っていた。
「なにやってるわけ」
「ご、ごめんなさい」
「かずにいの邪魔すんじゃないわよ」
「はい…気をつけます」
「馬鹿じゃないの?そんなの、幼稚園児でもわかるわよ」
麗蘭は黙った。莉子に何を言っても無駄だと、わかっているからだ。
「私は、あんたがかずにいの彼女だとか認めない。かずにいもかずにいよ。こんなブス女選ぶなんて」
かずにいは美人が大好きなのにどうかしてる、と莉子は溜息をついた。
麗蘭は、その場に立ち尽くした。
莉子は、邪魔よ、と言って麗蘭にわざとぶつかりリビングへと去っていった。理沙子は、外出していて家にはいなかった。
麗蘭は、悲しい気持ちになった。




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