愛は貫くためにある

シンデレラの勇気

止めなければならない。このままじゃ、君の心は壊れてしまう。
―いや、既に壊れているのかもしれない。しかし、今ならまだ間に合う。
修復不可能だと言われようと、僕は君の心を、治す。
また僕に、笑顔を見せてくれるまで。

「ちっ、またお前かよ」
金髪の男が、守を睨んだ。美優は、目の前の大きな背中を見た。
「どれだけみーちゃんを苦しめたら気が済むんだ」
「その台詞、そっくりそのままお前に返してやるよ」
「何だと?」
守は男に殴りかかりそうになったが、後ろにいた美優が服の裾を引っ張り、
「やめて」と小声で言ったので殴るのはやめた。
「美優を苦しめてんのはそっちだろ?美優の王子は俺。お前は悪役」
守は黙った。確かに自分は、美優を苦しめていることには変わりないー
守は男に反論できずにいた。
「言い返す言葉もない、ってか」
男は高らかに笑った。
「確かに、僕はみーちゃんを苦しめてるかもしれない」
「案外簡単に認めんのな」
「でも僕は、誰よりもみーちゃんを愛してるって自信持って言える。
誰にも譲る気ないから。勿論、お前にも」
「このナルシストめ。いい加減諦めたらどうだ」
「どんなに僕の気持ちを伝えても、みーちゃんに届かないことくらい、わかってるんだ」
守の背中が妙に寂しそうに思えて、美優は目の前の背中に触れようとした。
「みーちゃんは僕のことが嫌いなんだ。ずっと避けられてるし。わかってるんだよ、
みーちゃんが僕のことが大嫌いだなんてことは…。でも、僕は諦められない」
「未練たらたらじゃねえか、情けねえな。その点、俺は純愛だな」
「どこが純愛だよ。嫌がるみーちゃんを虐げて、自分の想い通りにならないとすぐ暴力を振るう。
無理に男女の関係を迫る」
「美優は、俺に迫られるのが好きなんだよ。お前は、悪役」
守は、男の肩を掴んだ。
「僕が悪役だっていうなら、それでもいいよ。
でも、みーちゃんをこれ以上傷つけるんなら黙ってられない」
「このストーカーめ!」
「ストーカーはお前だろ」
男は、守の手を振り払った。
「みーちゃんは、渡さない」
「ふざけんな、この女たらし…!」
男が逆上して、守に向かって拳を振り上げたその時―
「みーちゃん、やめろ…!」
守の悲鳴が、夜の闇に紛れる。
「みーちゃん、みーちゃん…!」
目の前で崩れ落ちていく、シンデレラ。助ける間もなく、守の腕に倒れ込む。
「まもる、にいさん…」
弱々しい声で、守を見て微かに微笑む美優。
「怪我は…ない?まもる…にい…」
「ないから。無傷だよ」
「よかった…」
「どうして…庇った?」
守の目からは涙がぼろぼろ零れていく。
「だって…」
美優が守の顔に触れようと震える手で、手を伸ばす。
血だらけの、その手で。
「守兄さんは…私の王子様だもの…今も、昔も…」
「みーちゃん…」
「いつも守ってもらってるから、恩返ししないと…」
「そんなことしなくていい。だから、だから、もうこんなことしないでくれ」
守は、美優を自分の胸に引き寄せた。
「また、迷惑…」
「迷惑じゃないって、何度言ったらわかるんだ。もう自分を傷つけるのはやめろ」
「うん…」
守は美優から少し身を離し、再び手を伸ばした美優の手をしっかりと握りしめた。
美優は幸せそうに微笑んで、意識を手放した。
「みーちゃん…!」
美優に何度も声をかけるも、反応がない。
「星鬼といったな?」
金髪の男は星鬼という珍しい名前だった。
「みーちゃんは絶対渡さない。こんなに傷つけて…許されると思うなよ」
街灯に照らされた星鬼の不気味な笑みと、
守の手に張りついた美優の血だけが照らし出されていた。
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