愛は貫くためにある

目の前にいたのは、守兄さんじゃなかった。これは私をおびきだす、罠だったんだ。

美優の目から零れ落ちる涙は、止まらなかった。
ガラス窓に映る街の灯りを見て、
美優は自分が遠いところへ来てしまったのだと、失望した。
「いつまで泣いてるんだ。こっちへ来い」
乱暴な言葉をかける星鬼に、美優は無言の抵抗を貫く。
星鬼はソファーに背中を預け、美優の後ろ姿をじっと見ていた。
「こっちへ来いと言っている」
星鬼は美優に近づき、手を引っ張ってソファーに座るよう促した。
美優は仕方なく星鬼の言うとおりにした。
美優の隣に腰を下ろした星鬼は、美優の方に体を向けた。
そして、何を思ったか美優の肩を押して美優に覆いかぶさった。
「何するの…?」
思いも寄らない星鬼の行動に、美優は慌てふためいた。
美優の両手首を押さえつけ、ソファーに固定した星鬼は満足そうに口角を上げた。
「美優が俺の言うことを聞かないから悪い」
「そんな…」
「いい。いいよ、その目」
星鬼は美優に顔を近付けた。
「やめて…」
美優は目を逸らした。
「美優にこんなに色気があるとは思わなかったな。俺が美優に惹かれるのも、無理はない」
星鬼は、抵抗する美優を見ながら舌なめずりをした。
「あいつが美優に執着する理由もわかる気がするな」
「やめて…!」
美優は泣きながら、拘束された手首を動かそうとした。
「怒るなよ。ごめんって」
星鬼は、美優の両手に自分の両手を絡めた。
「安心しろ。すぐに俺のものにしてやるからな」
「どういう、意味…?」
美優は兎のように小刻みに震えている。
「美優も俺も、もう大人だ。俺のものになるという意味は、わかるはずだ」
星鬼は、美優の腰を片手でなぞった。
「いやっ…」
「敏感…いいねえ…」
星鬼はネクタイをするりと外し、美優の両手首を胸の下で固定した。
「離して!いやっ…んっ…」
声を出して抵抗する美優の唇を塞ぎながら、星鬼の両手は美優の胸を愛撫する。
「美優…もっと俺を感じろ。まだまだウォーミングアップは始まったばかりだぞ」
美優が抵抗すればするほど、星鬼は興奮していた。
星鬼の言いなりになるしかないこの状況に、美優は絶望した。
美優が静かに目を閉じると、星鬼は自分を受け入れてくれたと勘違いし、
嬉しそうに美優の唇を貪った。


美優は守にデートに誘われて、しっかりと手を握り夜道を歩いていた。
「ねえ、守兄さん」
「…」
「ねえってば」
「…」
守は黙って美優を一瞥した後、止めていた足を再び速めた。
「どこに行くの?」
返事のない守の後を、美優はついていく。人通りが多い道を歩いていたはずなのに、
いつの間にか木が多く生い茂る森の中へと足を踏み入れてしまっていた。
「ねえ、ここはどこなの?守にい…」
守が、足を止めた。守が振り返った瞬間、美優は悲鳴を上げた。
守の顔がぐにゃりと歪み、全身銀色の宇宙人が姿を現した。
「あなたは…誰なの?」
美優は二、三歩後ずさった。
「ワレハ フリロス タイサ」
「フリロス、大佐?」
宇宙人は頷いた。
「フリロス、デ、イイ」
「フリロス…、どうして私をここに連れてきたの?」
「ミユガ スキダカラ ワレノモノ二 シタイ」
戸惑う美優の手をフリロス大佐はがっしりと掴んだ。
「ワレノ ヨメニ ナッテ クレ」
「無理よ。私は好きな人が…」
「ユルサナイ」

『守兄さんじゃない、逃げなきゃ』

美優は足が思うように動かなかったが、フリロスから逃げようと夢中で走った。
今自分がどこにいるのかもわからない状態だったが、
とにかくフリロスの間の手から逃げなければ、ということしか美優の頭にはなかった。
物凄い速度で追いかけてくるフリロスに敵うはずもなく、
足がもつれて前のめりになって転んでしまった美優は、フリロスに捕まってしまった。
「ツカマエタ」
フリロスは美優を自らの城へと引きずっていった。
美優は意識を失い、フリロスに担がれていた。




私を誘拐したのは、言葉も文明もよくわからない宇宙人。その宇宙人は、私を見染めた。
どうしても自分の星に連れて帰りたいという強い思いで、
私を城に閉じ込めて振り向かせようとしていた。

―それだけなら、まだよかった。

でも、宇宙人の正体を知った私は震えが止まらなかった。
全身銀色の無口な宇宙人が、まさかあの人だったなんて。
悪夢であってほしいと願っても、現実は変わらなかった。
「最近、大人しくてつまんねえな」
美優は星鬼に抵抗することを諦めてから、
星鬼は「つまらない」と口にすることが多くなった。
縛られることが嫌いな美優を自由に行動させるようにしたが、
いつもガラスからの景色ばかり見つめる美優に、星鬼は苛立っていた。
「なあ、美優」
ガラス窓の近くに立つ美優を、星鬼は後ろから抱き締めた。
「いつになったら、俺のものになってくれんだよ」
黙りこくる美優の胸を鷲掴みにする星鬼の手を、美優は思わず掴んだ。
「やめってって、言ってるじゃない」
「少しくらい、いいだろ」
「離して」
星鬼は溜息をついて、渋々美優を離した。
美優が安堵の溜息を漏らしているのを、星鬼は見逃さず、
背後から美優の向きをくるりと変え、向かい合った。
不敵な笑みを浮かべた星鬼は、美優の唇を素早く奪った。
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