耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー


ガラスの器が空になった時、美寧の頭を温かなものが撫でた。
ふと顔を上げると、切なげに揺れる瞳と視線が交差する。

怜は何も言わず、何度も何度も、大切そうに美寧の柔らかな髪に手を滑らせる。

「あの、」
「すみませんでした。」

二人が口を開いたのは同時だった。
美寧は『お先にどうぞ』と目で合図を送る。

「あなたのことも考えずに暴走してしまって。」

「えっと……」

“暴走”というのが何を指すのか、すぐには分からなかった。

「その上痛い思いまでさせてしまって……本当に申し訳ありませんでした。」

「それはもう…」

大丈夫だから、と口にしようとした美寧は、怜の次の言葉に止まった。

「しばらく“恋人練習”はお休みにしましょう。」

「えっ?」

「火傷が治るまでは、恋人になる前のように過ごしましょう。」

「えっと…、それってどういう……?」

「俺はしばらく美寧には触れません。大人しくしているので安心してください。」

(安心……って)

美寧には何がなんだかよく分からない。

怜は惜しむように一度だけゆっくりと美寧の髪を撫でると、「部屋で仕事をします」と言って去っていった。

リビングにひとり残された美寧は、しばらくソファーに座ったままぼんやりとしていた。





【第六話 了】   第七話に続く


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