旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
『どうしたら、愛する人のことを忘れられるのだろう』
「芽衣、荷物はこれで全部か?」

「うん」

最後の荷物をお兄ちゃんに車に積んでもらい、助手席に乗り込んだ。

「じゃあ帰るぞ」

「……うん」

お兄ちゃんが運転する車で、数ヵ月間だけ暮らした彼のマンションを後にした。

俊也さんに離婚届を突きつけてから、二週間が過ぎようとしている。

泣きながら帰ってきた私を、家族は何も言わず優しく出迎えてくれた。そして俊也さんに離婚届を渡したことを打ち明けると、お父さんは「あとのことは任せなさい」と言ってくれたんだ。

この二週間、会社で何度も顔を合わせていたが、これまで通り接することができていると思う。同僚に気づかれていないから。

でもお互い交わしたのは挨拶や連絡事項のみ。私はできるだけ俊也さんと顔を合わせないように過ごしてきた。

離婚については親同士の協議の結果、一年後に先延ばしとなった。大々的に知らせてはいないものの、密な関係にある企業には私たちの結婚を報告していたからだ。

なにより私への配慮だった。
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