次期院長の強引なとろ甘求婚
私と、道路の向こうにあるフラワーショップを交互に見た彼は、ふっと口元を緩める。
あからさまに見つめていたから、〝偵察中〟なんて思われてしまったのだろう。
なんと否定すればいいのかわからないまま、気づけば無意識に横に首をぶんぶんと振っていた。
「あれ、違うんだ。それはそれは、勘違い失礼しました」
私の全力の首振りに、彼は苦笑する。そして、おどけたような口調で謝罪をした。
「偵察とかでは、ないんですけど……気づいたら、ここに来てました」
「え……?」
「あのお店ができて、うち……お客様が減ってしまって。お店、畳む予定なんです」
胸の辺りが詰まるように、息が苦しくなる。
買い求めた花束を手に出てきたあの店のお客様を、微かに揺れる視界の中でじっと見つめていた。
「――ごめんなさい、こんな話、お客様に……」
「いや、それは全然構わないけど、今の話は本当――」
「すみません、忘れてください!」
とんでもない告白をしてしまった。
そう気づいた時にはもう遅くて、頭を下げて逃げるようにその場を立ち去っていた。
「ちょっと待って!」と背後で彼の声が聞こえた気がしたけれど、振り返ることも、立ち止まることもできず、ただひたすら駆ける脚に身を任せていた。