次期院長の強引なとろ甘求婚


「ありがとうございました!」


 お客様を見送り、店頭に並べるアレンジメントでも作ろうと花を選び始める。

 うちの店は、この近くに病院があるせいか、お見舞い用の花束を買い求めるお客様がとても多い。

 赤とピンクのガーベラを手にし、カスミソウを選んでいた時だった。


「こんにちは」


 振り返った店先に現れた姿を目にして、「あっ……」とつい声に出してしまいそうだった。


「いらっしゃいませ!」


 予定よりも張り切った大きな声で挨拶してしまう。

 明らかに不自然な声の調子になり、急に恥ずかしさが込み上げた。

 百八十以上は優にあるだろう長身は、必ず仕立ての良い三揃いを着こなしている。

 緩やかに流れる綺麗な黒髪と、目鼻立ちの整った顔立ち。

 小顔でスタイルがいいから、雑誌からでも飛び出してきたような人だと密かに思っている。

 いつも穏やかな表情で、物腰は柔らか。

 そのゆとりのある雰囲気は、きっと優しくて余裕のある人なんだろうと、勝手に妄想を繰り広げている。

 スーツという格好から、この近くの企業に勤めているのかと予想。

 でも、その辺の会社員という感じにはどうも見えない。

 そういう洗練された、特別なオーラが出ている。


「花束でしょうか? 何かお作りしましょうか?」


 店内の切り花を眺める後ろ姿に声をかける。

 いつもうちの店に訪れると、決まって花束を購入されていくこのお客様。

 月に数度来店しては花束を購入されていくので、やはりこの方も病院へお見舞いにでも行っているのかと思っている。

 こんなにマメに花束を買っていくなんて、もしかして病弱な彼女とお付き合いしている、とか……?

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