ひと通り食事を終えた後、パウダールームに彼女が立ったタイミングで、スタッフを呼び支払いを済ませる。

 そんな普段通りの行動を取りつつも、席にひとりになってから改めて浮ついた気持ちに襲われていた。

 彼女が、交際申し込みを受け入れてくれた。

 しかも、彼女の方もそれなりに好感を持ってくれていたと知り、天にも昇る気分だった。

 もしかしたら、丁重にお断りされるかもしれないと覚悟もしていた。

 お付き合いしている、将来を約束している相手がいるなどという返事も大いに有り得るだろうと……。


「すみません、お待たせしました」

「うん。じゃあ、行こうか」

「あ、はい」


 席を立ってエントランスへと向かっていく途中、後ろをついて歩いてくる彼女はバッグの中をがさごそと漁る。

 扉を開け「ありがとうございました」と見送る黒服のスタッフに会釈をして店を出ていくと、すぐに未久さんが背後から「あのっ」と声をかけてきた。

 振り返ると、二つ折りのお財布を手にした彼女がどこか困った表情でこっちを見上げている。


「お会計、私……」


 え、まさか払う気でいたの?

 と内心驚きつつ、微笑んで見せる。


「しまって。俺が誘ったんだから、そんなことは気にしないで」

「え、でも――」

「今日は付き合ってくれて、ありがとうね」

 そう言うと、未久さんは律儀にぺこりと頭を下げ「すみません、ご馳走様でした」と申し訳なさそうに目を伏せた。