異世界から来た愛しい騎士様へ
第2話「姫としての役目」
第2話「姫としての役目」
漆黒の宝石のように強くて美しいと思った。
その少年の瞳は、エルハムが見たことがない色なのだ。何色にも染まらないはずの黒。それなのに、トンネルの光を受けて暖かい色が移りこんでいた。
その瞳に吸い込まれるように、エルハムは彼に近づいていた。もっと近くで見たい。そして、その鋭く怯える瞳を、安心させてあげたい。そんな風に思った。
そして、彼に向けて片手を伸ばした時だった。
「姫様っ!!すぐに離れてください!」
「え………っっ!!」
セリムの厳しい声が後ろから風のように吹いてきた。
けれどその声を聞くよりも、一瞬の事だった。
今まで、そこに座っていたはずの少年。エルハムの目の前にはただ土道があるだけで、いつの間にか少年の姿はなくなっていたのだ。
次に感じたのは痛みだった。
右の手首に何かで叩かれたような痛みを感じたのだ。見ると赤く腫れている。
離れたところに、木製の剣のような物を持ち、構えてエルハムを睨む少年がいた。
「あなた、いつの間……。」
「エルハム様、大丈夫ですか?私の後ろに隠れてください。誰かエルハム様の傷の手当てをしろ。そして、この少年を捕らえろ。」
セリムは焦った様子でエルハムに近づき、そして少年からエルハムを離そうとした。