ビタースウィートメモリー



「社員の親睦を深めるだけなら花見と忘年会で充分だろ。あとは予算の無駄遣いだ」

「おお、忌憚の無い意見だな。お前のとこの課長が聞いたらぶちギレるぞ」

「あの人普段地味で大人しいけどお祭り好きだもんな。多分日頃のストレスをそこで発散していると見た」


声を立てて笑ってから、悠莉はハッとした。

さっきまで大地を意識してドギマギしていたのが綺麗さっぱり無くなり、いつも通りのくだらない雑談が出来ている。

普通に話が出来ることにホッとした。

大地にドキドキしたのは、やはりキスされたり思わせ振りな発言があったから、それだけなのだろう。


「じゃあ、練習日程の調整があるから、今月の予定書いといて」

「わかった」

「腕慣らしに、明日バッティングセンターにでも行く?」


バッティングセンターは久しく行っていない。

なまった腕を戻すためにも、ちょうど行きたいと思っていたところだった。


「行く。歌舞伎町のバッティングセンターにしよう」

「14時でいいか?」

「OK、じゃあまた明日」


電話を切り、ベッドに倒れこむ。

勢いだけで会話を進めたから気づかなかったが、大地はキスしたことについて一切触れてこなかった。

あれだけの酒量で記憶を飛ばすほどやわな男ではない。

つまり、なかったことにしようという意思表示だろう。

向こうがそのつもりなら、わざわざ蒸し返すような真似はしなくていい。

さっさとあたしも忘れよ。

寝返りを打ちながら、悠莉はふて寝した。


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