ココロとセツナ
つぎの出来事
高校2年の春、5月の終わり。
突然、天野マナは俺のクラスへ転入してきた。

衝撃、を受けた。

何かが、頭の中でカラカラと回る。

ひんやりとした、部屋。
白い装束。

俺はあの時、盃の霊水を飲み干した。
彼女は、目の前に座る俺を見て、ゆっくりと微笑んだ。

ここはどこで、自分は一体誰で、彼女は、何のために自分の前に姿を現したのか。

胸が熱い。


「委員長、学校の中を案内してやってくれ」

俺は担任の時刈爽先生に頼まれ、マナに会釈した。

「天野マナです。よろしくお願いします」

無表情だが、しっかりとした挨拶には誠意を感じる。
目が離せなくなるほどの艶やかな長い黒髪、色白でとびきりの美少女。

あの少女だ。
…あの神社での出来事は、夢では無かったのか。

動悸が高鳴る。

見たかった夢を、やっと見られたような。

この一瞬が、消えてしまわないように、彼女を目に焼き付けてしまいたくなる。

「学級委員長の、三上海斗です」

「あ」

「?」

「鳥居の下で、倒れてた時以来だね」

「やっぱり、あの時の…」

「やっと見つけた」
マナは微笑んだ。

「あの日は、あなたがあまりにも衰弱していたから、また来てもらう約束をして兄の爽があなたを家まで送っていった」

彼女は続けた。

「その後待っていたのに、あなたは神社に現れなかった」

「道が…」

「?」

「道が、見つからなくなった」

信じられない。

「あれは、夢だったのかと思ってた」

「神社は存在するし、あれは夢ではない」
マナは笑った。
「今日からまた、遊びに来るといい」

学校をひととおり案内すると、彼女の希望で岩時神社へ行くことになった。

「君に会ったら、たくさん聞きたい事があったのに。何から話していいか、わからない」

俺は、参道を歩きながらマナに聞いた。
「何故俺は、あの霊水を飲ませてもらえたの?」

マナは、俺の目をじっと見つめた。

「俺の心の色が、黒に近づいていたから?疑いと、不満で満ちた色で覆われる前に、魔法の水で白い心に変えたかったとか」

「そうではない」

マナは続けた。
「『灰色』の海斗。あなたは、マスターだから」
「マスター?」

「全員の海斗をまとめて、束ねられるのはあなただけ」

まとめて、束ねる?

「迷い、苦しみ、1番自在に変化しながら、答えを探し続けられるのは、あなただけ」

マナは、鳥居の下で俺の手を握った。

「儀式は儀式。形だけだ。でも、誰がやってもいいというわけではない」

「あなたはちゃんと覚えてる。みんなの中で1番、真実に近い答えにたどり着ける」

「1番迷う事の出来るあなたこそ、あの霊水を飲むにふさわしい」

神の世界と、人の世界の境界にて、自分の真実に少しだけ、近づいたような気がした。
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