タイムマシーンにのりたい

そのいち


「今夜空いてるなら、お前もどう?大学の後輩に飲み会セッティングしてもらったんだけど…」

最近“婚活”を始めたらしい同期の柏原(かしわばら)は、何かと俺を飲み会(一昔前なら合コンと呼んでいるだろう)に誘ってくる。
婚活と言っても本格的なものではなく、マッチングアプリに登録したり、街コンに参加したり、知り合いに頼んで飲み会を開いてもらったり………どうやら、今時の婚活は随分と気軽に始められるらしい。

「俺はいいよ。若い奴らと行けよ」
「そんなこと言ってるうちに、すぐに40だぞ」
「まだ32だし…」
「この5年で結果出せてない奴が、次の5年で結果出せるわけないだろーが」
「耳は痛いが、気は乗らない」
「またそれだ。昔付き合ってた女がどんだけいい女だったか知らねーけど、余裕ぶっこいてたら一生一人だからな」

柏原は呆れたように俺を見下ろして、鼻息荒く帰って行った。その後ろ姿を見送りながら、俺はひっそり溜息をつく。
忘れられない女がいると言えば聞こえが良いが、要は彼女と別れてから、まともな恋愛をしていないだけだ。

五年前。
当時付き合っていた彼女に、別れを告げられた。
元々結婚願望の強かった彼女と、ちょうど仕事が楽しくなってきた頃で、正直すぐに結婚なんて考えられなかった俺。彼女がさり気なく将来の話をすれば、毎回それとなく話題を逸らしていた。
何度目かに話題を逸らした時、彼女はどこか納得した様子で「私たち別れた方がいいね」と言った。彼女は俺を責めなかったし、俺も彼女を引き留めなかった。無理をしてすぐに結婚することも、彼女をあてもなく待たせることも、どちらもきっと正しくないことは分かっていた。

『タイムマシーンにのりたい。五年後の有喜哉(ゆきや)くんなら私と結婚してくれるかな』

別れ際の彼女の精一杯のジョークに。
少しだけ俺の胸が痛んだ。
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