100本の鉛筆
鉛筆
高校の帰り道。

私は今日もその店に行く。

希望書店。

私の通う花咲高校から自転車で5分ほどの場所にあるその店は、この辺りに初めてできた大型書店。

私はその店に毎日のように通う。

けれど、何をするわけでもない。

なぜなら、私は、本が嫌いなのだから。

それでも私は毎日ここに通う。

ここに来て、店内をひと回りする。

そして、無駄に背の高い銀縁眼鏡のおっさんを探す。

私は、そのおっさんが世界で一番嫌いだ。

だから、そのおっさんを見た日は、鉛筆を1本、万引きをする。

鉛筆なんて欲しいわけじゃない。

だって、私が普段使うのは、もちろんシャーペン。

鉛筆なんて、マークシートの模試の時にしか使わない。


そのおっさんが店にいるのは、週に1、2度くらい。

残りの3、4日は、店を1周して、何も買わずにそのまま帰る。

自転車に乗り、高校の前を通り過ぎて、誰もいないアパートへと向かう。

帰宅して、背負っていたリュックを置き、制服から着古した中学の時のジャージに着替えて、夕食を作る。

ほどなく母が帰宅し、2人で食べる。

食後には、勉強をする。

もちろん、シャーペンで。

私のリュックの中には、10本ずつ輪ゴムで束ねた鉛筆がある。

狭い我が家。

机の引き出しになんて入れたら、掃除に来た母にあっと言う間に見つかってしまう。

だから、私のリュックの底には、毎日、使いもしない鉛筆が入っている。

日々増えていく鉛筆。

それは、高校2年を終えた今日、99本目を数えた。

あと1本で100だったのに。


私は春休みを迎えた。



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