100本の鉛筆
不幸の始まり
10年前、父は母の友人に泣きつかれ、母に内緒で2人で酒を飲んだ。

彼女は父にずっと思いを寄せていた。

けれど、父は母を選んだ。

彼女は、1度だけ抱いてくれたら、それを思い出にきっぱり諦めると言う。

しかし、父ははっきりと断った。

しかし、泣き続ける彼女を慰め、酒を飲み交わすうちに、父は意識を手放した。



父は目覚めた時、初めは何が起きているのか、分からなかったと言う。

見知らぬベッドに仰向けに寝ている。

が、視界に入るのは、天井じゃない。

先ほどまで酒を飲み交わしていた彼女の一糸纏わぬ姿。

腰を上下させる彼女と目が合った瞬間、状況を理解すると同時に、限界に達し、無意識のうちに欲望を彼女の中に解き放った。

彼女は、その一回で身ごもった。

それはそうだろう。

あえて、排卵日を狙ったんだから。

彼女は、母に宣戦布告した。

母は、父の釈明も謝罪も受け入れず、私を連れて家を出た。

しかし、働かなくては生きてはいけない。

専業主婦だった母は、就職活動に難航し、父の勧めで、父の経営する希望書店に就職した。

失意の父だったが、徐々に膨らんでくるお腹を盾にいくら迫られても、彼女と再婚をすることはなかった。



それまで、社長令嬢として生きてきた私の生活は一変した。

豪邸から質素なアパートに引っ越し、ホームパーティはなくなり、高級食材を使った料理は食べられなくなった。

だから、私は思い込んだのだ。

うちは貧乏だって。

吹奏楽部に入りたいって言えないくらい生活に困ってるって。


だけど、朝10時からフルタイムで働く母の基本給は、父と同じだった。

残業手当が付く分、社長の父より年収は多かった。

ただ、使わなかっただけなのだ。


以前は、父のために手の込んだ豪華な食事を用意していた。

それが、父がいなくなり、必要でなくなった。

社員や取引先を招いてのホームパーティーも、社長夫人でなくなれば、やる必要もない。

ただ、それだけなのだ。

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