コール・ミー!!!
瑠衣は、首を横に振った。





「ごめん。私、滝君と付き合えない」




彼は、表情を変えなかった。


だけど、瑠衣の手を握る彼の力が、また少し強くなった。




「…どうして?」





言うのがつらい。





「ずっと友達でいたい。滝君と私が付き合う未来は、想像出来ないから」


彼は、少しイライラした表情を見せた。そして、瑠衣の手を強引に引いて、急に歩き出した。





「…滝君…?」





彼は、あっという間に1番近くにあるベッドに瑠衣を押し倒し、逃がさないように両腕を力ずくで押さえて、見下ろした。




「…こういう未来?」





掠れる、彼の声。
間近で見る、日に焼けた肌。
真剣な表情、伏せた瞳。

耳元で感じる吐息。





…違う。

瑠衣は、小さく首を横に振った。





触れられていても、
滝君の事は、驚くくらい
少しも怖くはない。









拓也の残忍な笑い声は、時々心の中で鳴り響くけれど。








爽やかテニスボーイが、一体何するの?
答えを引き出したいだけ?







それとも少し、本気なの?







瑠衣も少し、彼に対してイライラした。


だけど部屋に来てもらう事にした自分にも少し、責任はある。


滝君は、苦しそうに瑠衣に聞いた。
はっきりと響く声で。




「どうして俺と付き合えないのか、全然わからない。佐伯、…考えてる事を、ちゃんと教えて」






嫌だ。

自分だけの答えをぶつけて、
さらに傷つけてしまうのは。




彼は静かに、こう言った。




「もし俺が納得出来たら、ずっとお前の友達でいる」





彼は続けた。







「でも、お前の言ってる事が少しでも矛盾してたら、このまま先に進む」







彼は瑠衣の両腕を押さえたまま、長い髪に唇で触れ、体を密着させながら、耳元で小さく囁いた。





「だってお前、すごくドキドキしてる。こんなに顔赤くして…期待させすぎ」






彼は切なそうに、






「なのに、…何でだよ」






と、また囁いた。



くすぐったさが、全身を駆け巡る。
瑠衣は耐え切れず、彼から目を逸らした。



もう、白状するしか無い。






「ドキドキしてるよ。これが恋なら、私はもうとっくに100人以上の人に、恋してる」




「…?」





「滝君にも、いつだってドキドキしてる」



あの夢を正当化するために、



「…だってあなたは、私の夢にまで出てきたんだもの」



あなたを、好きになりたかったけれど。



「…え」




「夢の中で、あなたとキスした」




でも答えはとっくに、わかってた。




「だから、あなたを意識してた。最近ずっと」




「……」



滝君はベッドの上で瑠衣に覆い被さりながら、顔を赤くした。





「でも、私は多分」













それとこれとは別。















「生きる事を楽しんでいる人としか、一緒にいられない」
















あの夢の続きを見たい自分も、




確かに存在するけれど。






「……」






瑠衣は、彼の目を見つめた。






「滝君、どうしてテニスが嫌いなのに、ずっと続けてるの?」







「……」











「勉強も嫌いなのに、どうしてあんなに、頑張ってるの…?」
















「……どうして、嫌いだと思った…?」















「とても苦しそうな顔を、してたから」









彼は、大きく溜息をついた。





そして、瑠衣からようやく体を離し、ベッドから降りて、また窓際の椅子へと腰を下ろした。







「お前には、わかるんだ」




彼は、頷いた。




「嫌いだよ。テニスも勉強も」

彼は窓の外に目を向けた。

「移り気だから俺。本当は、別な事がやってみたくてたまらない。テニスはもう正直飽きてて、死ぬほどやりたくない」



彼はまた息を吸って、大きく吐き出した。


「…でも、仕方なかった」



彼は自分のペットボトルに少しだけ残っていたお茶を飲んだ。



「辞めたら人間関係がゴタつくのが、面倒臭い。1度始めたテニスは、高校生活最後までやり続ける方が、カッコいいと思ってた。勉強もそう。吐きそうなくらい嫌いだけど、続けてる。人が自分をどう見てるかが、1番気になるから、俺は」



滝君は悲しそうな瞳で、瑠衣を見た。



「お前は、俺とは全然違うんだな」


瑠衣は頷いた。


滝君は、以前は瑠衣に『ちょっと自分と似てる』と言ってくれていた。



「私も、当たらず触らず、誰にでも、仲良くなってもらおうとしてる」



瑠衣は自分を、知り尽くしていた。



「その人を、少しでも知っておきたいから」


光の部分も、闇の部分も。


「全部は、理解出来ないけど」


結局は、人が怖いから。
もう、自分か傷つきたく無いから。


「本当に近づきたいと思える人を、自分の目で見つけたいの」



怖くたって、人と関わらなければ、生きていけないから。


本当は人が、好きだから。


「私は、」


だから誰よりも、光り輝く部分をもっと、見せつけて欲しい。


その美しさに、ただ惹かれていたい。



「自分が本当にやりたいと思ってる事を、心から楽しんでやっている滝君に、いつか会いたい」








瑠衣は、滝君が座っている窓際の椅子に自分から歩み寄り、向かいの椅子に座った。






「そんな滝君と、一緒に過ごしたいと思う」




彼は、少し苦笑いした。





「じゃ、まだ少しはチャンスはある、って事だよな」



「…」



「夢でキスまで、させてくれるくらいだし?」



「…」








瑠衣は、顔が赤くなった。

本当はもう少しだけ、進みましたけど。




「諦めないから、俺」
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