甘くてやさしくて泣きたくなる～ちゃんと恋したい

１．つまらない女

１．つまらない女


その人の顔が近づく。

彼の熱い息が私のまつ毛にかかる。

「や、やめて下さい……」

私は彼から顔を背け、その胸をぐっと押し返す。

その人は明らかに不満そうな顔をして硬直している私を見下ろしていた。

「ちっ、なんだよ。もったいぶりやがって」

「ごめんなさい。私そういうの無理なので」

「お前って、見た目と性格とのギャップありすぎ。ほんとつまんない女」

彼は吐き捨てるように言うと、ベンチに無造作にかけていたジャケットを手に取り、真っ暗な夜の公園に私一人残したまま去っていった。

彼の足音が完全に聞こえなくなったことを確認すると、額ににじんだ変な汗をハンカチで拭き、ゆっくりと深呼吸をしてベンチから立ち上がる。


こんなことは初めてじゃない。

色白で、二重のどんぐりのような丸い目。
髪は染めてもいないのに薄茶色でふわふわと柔らかく天然のウェーブがかかっていた。

昔から「お人形さんみたいね」と言われるほど、一見華やかで目立つ顔立ちの私は男性経験が豊富に見られるのかよく声をかけられる。

だけど、両親ともに教師という厳格な家庭で育ったせいか、見た目と違ってドが付くほどの真面目な性格で地味に生きてきた。
そんなこともあって、声をかけてきた相手も一、二度会ったらそれっきり連絡は途絶える。

もともと一人で読書するのが何よりも好きな人間だから、それはそれでいいのだけれど。