甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
8.恋の力が引き寄せるもの
8.恋の力が引き寄せるもの


それからは、また平穏な日々が始まった。

平穏っていう言葉が適切かどうかはわからない。

正直、今は『平穏=無味乾燥』という方が合致するような気もする。

とにかく、何の刺激もないドキドキもない、ひたすら日常を回す生活。

そういえば、久しぶりに母から電話があったっけ。

『元気してる?』

「多分」

『多分って何?』

甲高い母の声が耳に響いた。

声が1オクターブ高くなる時は、決まって私に対して不満があるときだ。

母の思うような答えが返ってこない時は大抵そんな声になる。

『たまには帰ってきなさい。お父さんも最近あなたが顔見せないから心配していたわよ』

「そうだね。また考えとく」

『最近、少しそっけなくなったんじゃない?大丈夫?何かあったの?』

相変わらずしつこく詰め寄る母にうんざりする。

母という存在が今はとても面倒だ。

これまでこんなこと思ったこともなかったのに。

答えるのもうざったくて、しばらく黙っていたら受話器の向こうで深いため息が聞こえた。

『芳江ちゃんの結婚が決まったらしいわ。結婚式は来月ですって』

芳江ちゃんって、母の妹の娘にあたる私の従妹だ。

私よりも一つ年下だけど、私とは違っていつも自由な生き方を好んでいた。

高校時代、アメリカに留学して、帰ってきたら髪の毛が緑色に染まっていたり、平気で彼氏と外泊もしていた。

そんな芳江ちゃんが結婚?

どこでどんな人と出会ったんだろう。

普段なら人の結婚だなんて気にもならないけれど、なんだか興味が沸いた。
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