無遅刻無欠席が取り柄の引っ込み思案の透明人間
俺は透明人間なんかじゃないーー!!
 
 今まで俺の方から挨拶はしなかった。

 下を向いて知らぬ不利をして通学していた。

 途中でクラスメイトに会っても教室までが気まずかった。

 シーンとしたまま教室まで歩いていた。

 彼らは、俺に話しかけてきた。だが、例えば昨夜のドラマの話。だから何だって思えて余計無口になっていく。

 ヤバい!腹が痛い!

 まだ駅の方が近い。

 ダメだ。足のうらがもたない。

 民家に入ろう。

 透明人間だから、垂れ流してもよさそうなものだが、お尻だけ、いや肛門だけ不透明になって、便だけ現れても気持ち悪い。

 門が閉まっている家は止め。

 庭がある家は止め。

 車庫のある家は止め。

 豪華な家は、鍵が開いていない上に、防犯カメラがある確率が高い。

 俺は同級生の筒美の家に向かった。

 筒美の家は、駅と坂道の中間あたりの私道奥にある。

 筒美の家に着くと、筒美が玄関で立っている。隣にいるお母さんに、行って来まーーす!!と言って家を出るところだった。

 筒美のお母さんは、そのまま家の前の植え木鉢に水をあげ始めた。

 透明だから、堂々と入れば良いのだが、俺は腰をかがめ、キョロキョロ周りを伺いながら家に入って行った。

 玄関を入り、土間から廊下に上がり、左は壁、右は和室二部屋を経て、突き当たりがトイレ、廊下はトイレの前から右に曲がり、お風呂とキッチンがならんでいる。
 
 俺は一直線にトイレに向かい用を足した。 

 次にシャワーを浴びた。

 身体が冷えきっていたので一息ついた。

 シャワーを浴びると温水で身体の輪郭が見えた。

 身体のあちこちがヒリヒリした。

 裸でいると、知らぬ間に、あちこちで傷がついているのだなと思った。

 服は、偉大だー!!と心の中で叫んだ。

 いや、心の中で喋るから、透明人間だといわれるのだ。

 俺は、声を出して、
「服は、偉大だー」と言った。

 蚊の鳴くような声だった。

 ダメだ。人に聞こえるように意思表示をしなくては。

 深呼吸をして、息を大きく吸い込んだ。


 「俺はーー!!透明人間なんかじゃないーー!!」

 「服はーー、い⋅だ⋅い⋅だぁーーーー!!」 


< 12 / 15 >

この作品をシェア

pagetop