無遅刻無欠席が取り柄の引っ込み思案の透明人間
俺は透明人間なんかじゃないーー!!
今まで俺の方から挨拶はしなかった。
下を向いて知らぬ不利をして通学していた。
途中でクラスメイトに会っても教室までが気まずかった。
シーンとしたまま教室まで歩いていた。
彼らは、俺に話しかけてきた。だが、例えば昨夜のドラマの話。だから何だって思えて余計無口になっていく。
ヤバい!腹が痛い!
まだ駅の方が近い。
ダメだ。足のうらがもたない。
民家に入ろう。
透明人間だから、垂れ流してもよさそうなものだが、お尻だけ、いや肛門だけ不透明になって、便だけ現れても気持ち悪い。
門が閉まっている家は止め。
庭がある家は止め。
車庫のある家は止め。
豪華な家は、鍵が開いていない上に、防犯カメラがある確率が高い。
俺は同級生の筒美の家に向かった。
筒美の家は、駅と坂道の中間あたりの私道奥にある。
筒美の家に着くと、筒美が玄関で立っている。隣にいるお母さんに、行って来まーーす!!と言って家を出るところだった。
筒美のお母さんは、そのまま家の前の植え木鉢に水をあげ始めた。
透明だから、堂々と入れば良いのだが、俺は腰をかがめ、キョロキョロ周りを伺いながら家に入って行った。
玄関を入り、土間から廊下に上がり、左は壁、右は和室二部屋を経て、突き当たりがトイレ、廊下はトイレの前から右に曲がり、お風呂とキッチンがならんでいる。
俺は一直線にトイレに向かい用を足した。
次にシャワーを浴びた。
身体が冷えきっていたので一息ついた。
シャワーを浴びると温水で身体の輪郭が見えた。
身体のあちこちがヒリヒリした。
裸でいると、知らぬ間に、あちこちで傷がついているのだなと思った。
服は、偉大だー!!と心の中で叫んだ。
いや、心の中で喋るから、透明人間だといわれるのだ。
俺は、声を出して、
「服は、偉大だー」と言った。
蚊の鳴くような声だった。
ダメだ。人に聞こえるように意思表示をしなくては。
深呼吸をして、息を大きく吸い込んだ。
「俺はーー!!透明人間なんかじゃないーー!!」
「服はーー、い⋅だ⋅い⋅だぁーーーー!!」