無遅刻無欠席が取り柄の引っ込み思案の透明人間
透明人間なんて気にしていられない人たち
 昨日は完全出席達成に意気込んでしまってよく眠れなかった。

 うかつにもこの大事な日に、車両の連結通路で、ドアにもたれてうとうとしてしまった。

 ここからでは外が見えない。今どの辺りを電車が走っているのか。

 俺は連結通路の扉を開け、乗ってきた車両に戻って、窓の外を見ようとした。

 想定外だった。いつもはガラガラの電車なのに、今は、小学生の低学年生でいっぱいになっていた。

 しかも教育なのかどうか座席は空いているのに、小学生は皆、立っていた。

 電車が駅に停車した。小学生のざわめきと、これが個性なのよ見せつけているような車掌のアナウンス。

 今どの駅に着いたのか判断できぬまま俺は少しかがんで、駅ホームの駅名の看板を見ようとした。

 右手でメガネのフレームを持ち上げようとしたが空振りした。

 俺は近視で、いつもはメガネをかけていた。だが今日は透明人間初日なので、裸眼の裸の裸足という出で立ちなのだ。

 この駅だ!俺は直感した。ホームの向こうの見慣れた景色がみえた。

 俺は透明人間という立場を忘れ、小学生をかき分け、降りまーす降りまーすと叫んで扉に向かった。

 キャーわーという小学生の悲鳴を背中に俺の上半身は電車の扉に挟まれた。一瞬、透明のお尻は小学生のいる車両に、上半身は車両の外へ出ていた。

 扉は一旦開き、また勢いをつけて閉まろうとした。

 俺はお尻側に反射的に戻り再度、扉に挟まれることから逃れた。
 
 先生何かぶつかりました。何か乗ってきましたと、小学生たちが口々に先生らしき女性に訴えたが、彼女の静かにしなさい!という一喝で車内は静けさを取り戻した。

 小学生にとって、透明人間に押されたことより、機嫌の悪い先生の方が恐いのだし、

引率の先生は、透明人間より世間様に生徒が迷惑をかけることの方が怖かったのだ。

 俺は次の停車駅で電車を降りた。乗車しようとした人にぶつかったが、気にしなかった。

 どうせ朝の出勤のサラリーマンは、透明人間にぶつかられるより、会社の遅刻の方が怖いのだ。
< 7 / 15 >

この作品をシェア

pagetop