無遅刻無欠席が取り柄の引っ込み思案の透明人間
透明人間の最大の敵は、雨と血
 時間が分からなかった。

 立ちこぎをした。

 前傾姿勢をとり、お尻を高くあげ自転車をこいだ。

 俺は透明であるものの全裸なのだ。

 透明人間だからよいものの、あられもない格好なのだ。

 そう思うと笑えてきた。

 いろんな感情がわき起こり、大声で笑いながら自転車をこいだ。

 通行人は、立ち止まって口を開けて振り返った。

 彼らには、自転車が暴走しているとしか見えない。

 お構い無く大声で笑いながら自転車をこいだ。 
 
 少し肌寒かったが体が温まってきた。

 途中から商店街に入った。

 ほとんどの店のシャッターは閉まっていた。

 通勤通学で人通りが多かった。

 俺はチリンチリン鳴らしながら人たちの間をすり抜けた。

 怪しまれようが驚かれようがもうどうでもよくなっていた。

 空腹だった。

 思ったより透明人間は、運動量が多い。

 思ったより透明人間は、頭を使う。

 思ったより透明人間は、気を使う。

 思ったより……。

 商店街を抜けると俺の降りるべき駅が見えてきた。



俺は北出口からいつもの通学路に戻った。

 そしてなだらかな坂の途中にある高校に向かった。

 複数高校の生徒がそれぞれの学校へ向かっていた。

 雨がポツポツ降ってきた。嫌な予感がしてきた。

 俺は隣駅からの自転車の勢いを借りてなだらかな坂を上がった。

 足を見ると血がにじんだ足のうらが上から見えた。

 雨で濡れた腕を見ると、透明だったところが現れていた。



 ヤバいと感じた俺は、更に自転車を加速した。
 
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