幼馴染は恋をする
・秘密裏

…こんなことしたら、気持ち悪いかな。それに迷惑だって解ってるけど。…棄てられても構わないんだから。そのくらいの気持ちで行かないと。

柳内さんの部屋に来た。
…ふぅ。居るとは思うけど。ドアの取っ手に紙袋をかけた。出かける時、外に出たら気がついてくれると思う。そうっと向きを変えて部屋を離れた。学校に行かないといけない。

私は何もできない。家事が完璧にできる、そんな自信もない。だけどクッキーを作ってみた。恵和君のおやつになればいいかなって。上手くできたかどうかは解らないけど。体に害になる物は入ってない。焦がしてしまった物は排除した。卵とバターと小麦粉だけのシンプルなクッキーだ。ただ見た目はどうか解らない…可愛い型で型抜きした。…恵和君は喜んでくれるかも知れないけど……目茶苦茶自己評価は低い。
こんな事、初めてした。沢山作って取り分けた。じゃないとお母さんにばれちゃうから。
お母さんは美味しくできてるって言ってたから大丈夫だとは思うけど…。
貴浩君にあげるの?って聞かれたから、うんそう、とスラスラと答えていた。私は平気で嘘をつくようになった…。

クッキーの写真を撮って貴浩君に送った。お母さんに聞かれることがあったら、こんなのを作って渡したことになってるからって伝えた。
貴浩君の了解も得ず、計画してしまってからいつもこんな風に伝えてる一方的なお願い……。
星の形のとか、一個くらいは持って来て俺も食べてた方がいいんじゃないのって言われたけど、それは大丈夫だよと言った。そんな事してるんだって…恥ずかしいから持って行くつもりはない。

「朝ちゃん!」

あ、…柳内さん。見つかってしまった。

「待って、これは君が?」

もう気がついてしまったんだ。歩いてないで走って帰ってたら良かった。

「はい。ごめんなさい、そんな物…手作りの物って、…気持ち悪いかも知れないって思ったんですけど、……私、何かお手伝いしたくても何もできないし。それだってまだ下手くそで。駄目じゃなかったら恵和君に、あ、駄目なら棄ててください。あ、駄目なら持って帰ります、ごめんなさい…返してください…」

「貰うよ…」

「…え?」

「一所懸命作ってくれたんだ。恵和と頂くよ、有り難う」

…あ。

「ごめんなさい…」

「どうして謝るの?」

「だって、こんな事…してること…子供だから…」
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