綺羅星の君へ
夢の終わり
ーー彼と先輩が、キスをしていた。
彼は目を白黒させているが、戸惑っているのかそれとも別の理由なのか先輩を突き放そうとはしなかった。

私は膝に力が入らなくなり、崩れ落ちる。
異様に口が渇いて、目から涙が止めどなく零れる。

「ち……う……っ!」

私に気が付いた彼が、何かを言った。
その言葉を聞きたくなくて、走り出した。
きっとこれから彼が紡ぐ言葉を正面から受け止めれば、私は壊れてしまうから。

■□■

私の名前は前下さくら、どこにでもいる普通の高校二年生です!

「早乙女くーんっ!」

で!この人は私の幼馴染み、早乙女拓哉くんって言うんだ!
後ろから私に抱き付かれて体勢を崩した拓哉が「うわっ!」と呆けた声を上げ、よろける。

「……なんだよさくらか。ダンプカーかと思ったぞ。」

「そんなに重くないもんっ!」

もうっ、いくら幼馴染みとは言え、女の子にダンプカーは無いんじゃないかな!?
ずっと、昔からこんな性格でもう嫌になっちゃうけど
顔はイケメンで成績も私よりも上、しかも運動神経バツグン!本当に同じ人種なのか疑問に思うよねっ!(絶望)

「そんなこと言ったらさくらちゃん泣いちゃうぞっ!」

「自分で言うなよ……」

「ねえねえ、早乙女君今日空いてる?」

二人で話していると、凛とした女性の声が聞こえた。
後ろにいたのは声の通り女性で、校章の色で上級生だと分かる

「……まぁ、空いてるっスけど。」

「じゃあ、放課後中庭に来て。」

耳許で何かを囁き、彼女はどこかへ行った。
今、いた先輩は誰?、とても綺麗な人だったな~
早乙女君に何の用事だろう?

「……じゃあ、俺はもう行くぞ。」

「あっ……うん。」

そう言うと早乙女君は、足早に去っていった。

「……日直なのかなぁ?」

彼の背中を見詰めながら、私の胸に何故か不安が生まれた。
それを振り払うため、私は同じく、早足でアスファルトを踏み出した。

□■□(side早乙女)

「ねぇ早乙女君、放課後開いてる?」

俺ときららが通学路を歩いていると、後ろから呉田先輩が話しかけてきた。
絹の様なしなびやかな黒髪、スラッと伸びた四肢、男なら誰で虜にしてしまいそうなその人が、笑顔でそう言った。

……この先輩に、いい噂は聞かない。
ヤクザと繋がってるらしいし、実際に何人も不登校に追い込まれている。
『学校の女帝』正しくその名が似合う人物だ。

「……まぁ。空いてるっスけど。」

俺一人なら断っても良かったが、ここにはきららが居る。
きっと、断れば、嫌がらせの矛先は俺のみならずさくらにも向かうだろう。それは、ダメだ。

「……じゃあ、俺はもう行くぞ。」

「えっ……うん。」

俺はきららを置いて学校に、向かった。

■□■

放課後、俺は呉田先輩に指定された中庭の前に居た。
緊張しながら中へ入ると、先輩は壁によりかかり空を見ていた。

「……うっす。」

小さく会釈する。
先輩はこちらに気が付くと嬉しそうな顔になり、駆け寄ってきた。

「ねぇ、早乙女くんーー」

細腕が、俺の首に絡み付いてくる。
そして反応できる余暇もなく、先輩と俺の唇は触れていた。

「……なんのつもりですか?」

「もぉ、釣れないなぁ、もう少し可愛い反応が見れると思ったんだけど?」

「別に、どうでも良いです。用事はこれで終わりですか?帰ります。」

先輩の表情がすこし曇った。

「……まあ、貴方はどうも思わなくても『彼女』はどう思うかな。」

「彼女?」

俺が入り口を振り返るとそこにはーー

「さく、ら?」

ーー目を見開き唖然としている、さくらの姿があった。

「っ、違う!違うんだ!」

弁明の間もなく、さくらは走り去った。
見られた、見られた!見られた!!!
心臓が早鐘の如く波打ち、頭がぐちゃぐちゃになる。

「……へぇ、君そんな顔も出来るんだぁ?……わっ!」

ケラケラ笑う先輩を突き放し、俺は走り出した。
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