「──越智! こっちこっち」



待ち合わせた居酒屋に入ってキョロキョロと店内を見回す俺の耳に、聞き覚えのある声が届いて目を向けた。

カウンター席の1番奥に座る見慣れた顔の男が、こちらを見て手招きをしている。

今日が金曜の夜ということもあってか人の多い店の中を通り抜け、たどり着いた空席に腰を下ろした。



「意外と早かったな。もっと遅くなるもんだと思ってた」

「たまにはこんな日もあるよ。ラッキーだったな、待ちぼうけくらわなくて」

「はは、別に、どうせ先に飲んでるから関係ないけど」



右隣の椅子に座る菊池が、ビールジョッキを片手に屈託なく笑って言う。

俺もつられるように頬を少し緩め、着ているワイシャツのボタンをひとつ開けた。

もとより、クールビズの一環でネクタイはしていない。さらにはシャツの両袖も捲りつつ、カウンター上にあるメニュー表に目を向けた。

仕事終わりにこうして気の合う同期と飲みかわすことは、別段珍しくはない。

中でも俺が1番顔を合わせる機会が多いのは、別支店同士で働いているにもかかわらず不思議と定期連絡が途絶えないこの菊池という男だ。

俺は院卒で菊池は四大卒のため、現在28歳の俺に対し年齢的には2歳年下。

だけどそんな年の差なんてものも気にならないほど、俺たちは妙にウマが合った。



「こないだ、時間作ってくれてサンキューな」



注文した俺の分のビールが届き、カチンとふたつのジョッキをぶつけた直後、菊池が晴れやかな笑顔でそう言った。

何のことか思い当たった俺は、乾杯直後で一気に半分中身を減らしたジョッキをカウンターに置く。