車のフロントガラス越しに見つめ合っていたのは、ほんの数秒の出来事だけど、私にとってのそれは、数分にも思える長さだった。

彼の私を見つめる眼差しは、まるで獰猛さを含みながらもそれを理性で無理矢理抑えているようだ。
この眼差しを、私は知っている。

あの日の彼の眼差しと同じだ……。

見つめ合っていると、今、私達が何処にいて、どう言う状況に陥っているかなんて忘れてしまいそうになる。

あれからもう、二年以上経つのに……。
あの日、逃げ出したのは私なのに……。

時間を巻き戻したかの様な錯覚を起こしてしまいそうだ。

そんな危うい均衡を破ったのはやはり彼で、運転席から出て来ると助手席側のドアを開けて、私を促す。

「どうぞ、乗って下さい」

彼の他人行儀な態度が、これが現実だと私に突きつける。

……そうだ。
これが現実なんだ。
私と彼は、智賀子さんを介して知り合った、ただの他人。

私はそれを肝に銘じながら、そっと会釈をして視線を逸らすと、彼が誘導する車の助手席に乗り込んだ。

私がきちんとシートに腰をかけた事を確認すると、彼は助手席のドアを閉め、運転席へと戻って来た。

シートベルトを締めて、車は静かに動き出す。