初恋のキミに約束を
説得?納得?
その頃、社長室では。

「大智おじ様に頼まれた物を届けにきたら、こんな事態になっているなんて・・・酷すぎます!」

大袈裟に目に涙を浮かべて親父に訴えてる杏子を、醒めた目で見遣りながら親父の出方を伺う。

月野には、爺さんを呼ぶ様に要請した。

責任は言い出しっぺの爺さんだ。

杏子には納得してもらわないと、何をしでかすか分からない。

「杏子ちゃん、落ち着いて・・・葉子には、大分前に、話してあったんだがね。それに、杏子ちゃんにも縁談が来てるだろ?・・・確か、北武デパートの栗宮君だったかな」

北武デパートの御曹司、栗宮楓は大学の先輩だ。

杏林堂は長女の果乃子が婿を取って跡を継いでいるが、中々経営が厳しいらしく葉子小母さんが愚痴っていたっけ。

「栗宮さんなら、俺より条件は良いな。きっと杏子を幸せにしてくれる」

「そんな政略結婚なんてイヤ!私は小さな頃から裕一さんのお嫁さんになるって、決めてたんだもの」

ムキになって杏子が言い返した時、バァンと社長室の扉が開いた。

扉壊す気かよ、爺さん・・・。

「ちょっと甘やかして育て過ぎだな、葉子」

「申し訳ございません、伯父様。杏子、帰りますよ!」

爺さんと葉子小母さんの登場である。

「功おじい様・・・お母様まで・・・」

まさか爺さんが出張るとは思わなかった、じゃ済まないな杏子。

悪いが、桜葉家はそんな甘くない。

社内で騒ぎお起こせば、尚更だ。

桜葉家から池波家へ嫁いだ爺さんの妹が、葉子小母さんの母親だ。

親父の従妹の葉子小母さんは桜葉の血筋か、経営に明るく、職人の婿を貰って杏林堂を盛り立ててきたが、どうやら雲行きが怪しいらしい。

「老舗の看板がなければ、お前の様な我儘な娘に北武デパートの御曹司との縁談なんぞが来るわけ無かろう!身の程を知りなさい」

「杏子、悪いけれど、この縁談が杏林堂の身代を支えるの。貴女が栗宮さんに嫁ぐ事で、北武デパートに新たに事業展開出来るのよ」

やはりそうか。

「さくら堂の嫁に、働いたことも無いお嬢様なぞは要らん」

爺さん、駄目押ししたな。

杏子は花嫁修行と言う名のニートだと、早々に気付いてたか。

伊達に会社をここ迄に、築いてきた経営者じゃ無いんだなぁ。

・・・俺、出る幕無いな。

しかし、葉子小母さん迄連れて来るとは、驚いた。

開いたままのドアの影から、月野がサムズアップしてる。

やるな、月野。

出来る同期で、助かるよ。

杏子は何も言えずに、唇を噛んでいる。

杏子、詰んだな。

葉子小母さんに肩を支えられて、ガックリと肩を落とした杏子は帰って行った。
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