初恋のキミに約束を
不測の事態~萌香side~
興奮する杏子さんを宥めながら、裕くんは優子さんを連れ立って社長室へと行ってしまった。

「モカ、気にする事無いわよ。桜葉部長はあれだけイケメンなんだから、ああいう勘違いオンナの一人や二人居るもんでしょ!」

祥子ちゃんは思いっきり良く、私の背中を叩いた。

「痛いよ、祥子ちゃん・・・」

「あんたは正式な婚約者なんだから、堂々としてなさい」

やっぱり、友達って良いな。

「うん・・・ありがと」

「何かあったら、私も花菜美も・・・優子さんだって相談にのるから!強気で居なさいよ。仕事が終わったらご飯でも行きましょ。花菜美には、LINEしとくから。じゃ、私も秘書課に戻るわね」

祥子ちゃんはヒールを鳴らして、颯爽と戻って行った。

何だかモヤモヤする。

確かに、桜葉家に小さな頃から出入りしていた杏子さん。

裕くんが遊びに来ていると、ウチによく迎えに来ていた。

彼女が来る度、裕くんが帰ってしまうから寂しかった。

裕くんの後ろで、勝ち誇った様な笑みを浮かべる杏子さんに私は何も言えなかった。

今度もまた、裕くんを取られてしまうんじゃないか・・・また、一人になってしまうんじゃないか・・・そんな不安がある。

現に今も、裕くんは彼女と一緒に行ってしまった。

ラベンダーカラーの上品なスーツを着こなして、艶やかな黒髪をハーフアップにした杏子さんは大人な美人に成長していた。

仕事があるとは言え、私は部外者の様な気分でモヤッとする。

いつの間に来ていたのか、田貫部長が私の肩をポンと叩いた。

「桜葉部長を信じなさい。彼は大丈夫だよ」

「・・・部長」

「不安になるのは仕方ないが、彼は言ってただろ。桜葉家の総意だって。総意と言うことは、桜葉部長も入るんだよ」

田貫部長の言葉は、すぅっと頭に入った。

「はい」

「さあ、さくら堂の父さんの為に美味しい珈琲を入れてくれるかな?」

「はい!」

心からの笑顔で答えた。

・・・ありがとう、お父さん。

私は素敵な人たちに、恵まれています。

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