また、いつか
ー2019年、初夏ー

上杉神社境内、鷹山公の銅像前。



「私この前この人の伝記読んだんだ。
すごい人なんだよ?
ねー、ナオくん、聞いてる?」

出店で買った米沢牛入りメンチカツを頬張りながら、女の子が銅像を見上げた。

「知ってるよ。
俺も読んだことあるもん。
しかし、珍しいこともあるもんだな。
よっこが伝記読むなんてな。
つーかおまえ、地元の英雄なのに今さら?」

やはり牛串を頬張っている男の子が揶揄うように目を細めて女の子を見る。

「あー、馬鹿にしてー!」

ツンッと唇を尖らせた女の子は、上目遣いで男の子を見上げる。

「鷹山公はすっごく奥さん想いの旦那さんだったんだって。
ナオくんとはぜんっぜん違うね!」

「何をー?
俺だってものすごい彼女想いの彼氏だろ?」

そう言うと男の子は女の子の空いている方の手を取って、指を絡めて手を繋いだ。

おもむろに顔を寄せると、女の子が持っていたメンチカツにパクリとかぶりつく。

「あー!食べちゃったー!」

「一口だろ?」

「一口がおっきい!」

「けち臭いこと言うなよ、ほら」

男の子は自分の持っていた牛串を彼女の口のそばに持っていった。

パクリ。

女の子も牛串にかぶりつく。


「ふふっ」
と女の子が笑う。

「へへっ」
と男の子も笑う。


「帰ろっか」

「うん」


見つめ合って笑い合った2人は、やがて銅像を背にして歩き出した。


でも、すぐに女の子がくるりと銅像を振り返った。


「…何?」

訝しがる男の子。

「うん…、なんか、銅像が微笑んだ気がした」

「まっさか〜。
夢でも見てたんじゃねーの?」

「…だよね」


再び銅像を背にした2人は、手を繋いで歩いて行く。


2人が去った後には、ただ爽やかな5月の風が吹いていた。


【完】

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