また、いつか
寂しい夜を何百回も過ごし、『良い子』で待っていた幸姫の元に、1年間、国元で勤めていた治憲が江戸に戻ってくると連絡が入った。

その日、幸姫はあの人が一番似合うと言ってくれた赤い打掛を着て、あの人が何度も可愛いと言ってくれた簪をさして治憲を待った。

屋敷に着いたと報告が入ると、幸姫は不自由な体を必死に動かして部屋を飛び出した。

屋敷に着いて真っ先に彼女に会いに来ようとしていた治憲はその姿を見て驚いた。

「姫!走っては危ない!」

慌てて彼女に駆け寄る。

「との!との!」

「姫!」

よろけて転びそうになる幸姫をしっかと受け止めた治憲は、そのままギュッと彼女を抱きしめた。

「ああ姫、私を迎えに出てくれたのですか」

1年ぶりに会う夫に抱きついて泣きじゃくる彼女は、ただ夫を慕う妻の姿でしかない。

「愛おしい人。
貴女に会いに帰ってきましたよ。
さあ顔を良く見せてください」

治憲はそう言って幸姫の顔を覗き込むと、そっと額に口づけをした。

そして、本当に愛おしそうに彼女に頬ずりする。

ああ、大好きなとのが私のところへ戻ってきてくれた。

幸姫はただただ嬉しくて、夫にしがみついていた。

ああ、この人の胸の中はなんてあたたかいんだろう。

ずっとずっとこうしていられたらいいのに。

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