宝石姫と我が儘な教え子

lapis side ブリリアント・デイズ



舞台は8年前に遡る




生まれつきの難病で、物心がついたときには長く生きられないのを悟っていた。

仕方がない。誰だって向き不向きはあるもの。私はたまたま長生きに向いていない体だったのだ。


治療以外はずっと好きなことをして過ごしてきたので、概ね楽しい人生だった。

……否、楽しい人生だ。私の寿命はまだ幾ばくか残されている。


二十歳まで生きるのは難しいと言われた体は、既にその期限を大きく上回っていた。もういつ死んでも、私にとっては大往生の部類に入る。


治療費だけでも相当の負担になっていた筈なのに、両親は将来まともに働くことのできない私にも惜しみなく教育をしてくれた。そのおかげで、私は大好きな美術を学びながら大学の教職課程に進んでいる。本当に、両親にはどれだけ感謝しても足りない。


唯一辛かったのは、私のために母が「ごめんね」と泣くことだった。私は母に心配をかけてばかりだけど決して不幸ではないのだ。それを分かって欲しくて、ひとつだけ約束した。


『私は絶対に夢を叶えるから見ていてね。ちゃんと叶ったら盛大にお祝いしてよね』


私はここにいるだけで幸せだ。毎日が楽しくて目指すものだってある。生きる長さなんか私の幸せにちっとも関係ない。



いつからか胸に抱いた夢は先生になることだった。もし先生になれたら、あっという間に過ぎる私の人生でも、教え子に何かを手渡せるかもしれない。


いつ死ぬか分からない身の上では本物の教師にはなれないけれど、教職課程には一ヶ月の実習期間がある。その間だけなら私も先生として過ごせるのだ。二十歳の期限を一年以上オーバーしてしまうけど、人生をかけた目標にするにはちょうど良い。


限られた時間なので、目標に不要なものは大胆に切り捨てる。例えば苦手な理系科目。うわべだけの友達付き合い。そして恋愛。だって結婚する前に人生は終わるだろうし、私は出産できる体ではない。

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