稲荷と神の縁結び


‐今でもたまに思い出す日がある。

人生で一番緊張した日。



それは‐あの滋子様と食事に行った日で間違いはない。





三年半ほど前。
ちょうど来年度の準備に終われた、三月の話。清貴さんの社長就任目前の話だ。


「時松さんってどの子かしら?」

数人のスタッフと、バックヤードで作業をしていた時だった。
コツ、コツと足音を響かせて誰かが入ってきたと思ったら‐それは何と滋子様だった。


真っ赤なピンヒールのパンプスを履き、ウエスト部分にはいかにも『それ』だとわかる緑と赤の線が入った黒のワンピースをさらりと着こなし‐おそらくパッと見は、どこかのミセスモデルに負けず劣らない風貌。

尚且つ、背筋が真っ直ぐ伸びた美しい立ち姿が、余計に美しさ…いや、敢えてマイナスに言うなら威圧感がプラスされている。

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