お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
すると彼女に地位をもたせようと、夫は彼女を第二夫人として娶ったのだ。

『仕方ないだろう。王にはその権限がある。法で許されているんだ。こればかりは私も止めることはできない』

なんでも自分の望みを叶えてくれた兄が言う。
直系男子を残すための法だというが、この国にはちゃんと自分の産んだ嫡子がいるというのに。

マデリンの頭の奥で、何かがプツリと切れた。

カイラが憎い。カイラが産む子が憎い。
居なくなってしまえばいいのだ。

マデリンは彼女を陥れるために手段を選ばなかった。
冷めた料理を運ばせたり、彼女の衣類に虫を仕込ませるといった、侍女を巻き込んでの小さな嫌がらせから、夜会中に彼女に男を差し向け、国王に疑惑をもたせたり。
しかし、元来おとなしい性格のカイラは、反応を表に出さない。国王に訴えるでもなく、ただ耐え忍ぶ姿に、マデリンはいら立ちが沸き上がった。

姿を見ているだけでも不愉快だ。
そう考えたマデリンはついに彼女を殺害しようと思い立った。

自分がやったと知られずに殺すには、どうすればいいだろう。
一番手堅いのは毒だ。出来れば、食してから時間のかかるものがいい。

だがそんな都合のいい毒があるだろうか。

マデリンは、視察と称して学術院へと行った。
毒の手掛かりが欲しくて、図書室へと向かう。そこで、一心不乱に本に向かう青年を見つけた。
正妃の来訪で沸き立つ他の人間たちとは違い、盲目的に目の前の学術書に向かう。それが、夜会でよく会うオルコット子爵の息子だと分かったのは、面差しがあまりにも似ていたのと、彼らから優秀な息子の話をたびたび聞かされていたからだ。
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