お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
エピローグ~とある第一王子のモノローグ~

王太子バイロンの寝室は、いつも静寂に包まれている。
毎日訪問するのは、医者と侍女くらいなもので、実母でさえ、週に二度ほどしか顔を見ない。実の弟はもっとひどい。月に一度顔を見せればいい方だ。
同じように週に一度程度しか来ないが、本当に多忙の合間を縫って来てくれると思えるのは、彼の実の父親であり、モーリア国王であるナサニエルだ。

そんな父の言葉で、ずっと心に残っているものがある。

『バイロン、お前は、自分の目で見たものを信じるんだ。正しさは数で判断するものではない。自分の中の真実から目をそらしてはいけない』

それを言われたのは、まだ言葉の意味を理解できないような幼い頃だ。
だけど、父の真剣な様子に気圧された気持ちになったことをよく覚えている。

母は弟のコンラッドが生まれてからそちらに夢中になった。もともと、第一王子として生まれたバイロンは早くから母とは引き離されており、親子といってもあまり親しい存在ではなかった。
そして初等学校に入る頃、母親違いの弟、アイザックが城にやって来たのだ。

美しい第二夫人に似た、人目を引く相貌。落ち着いて見える黒の髪、父の息子であることを疑わせない緑の瞳。
見た瞬間に嫉妬した。父も、寵愛する妻の子をかわいがるのだろうと。
だから、来てすぐは彼にひどく意地悪をした。四歳違えば勝って当たり前なのに、ワザと見せつけるような態度を取り、アイザックを泣かせた。
母はそれを喜んでくれた。アイザックより上に立てと言い続けられた。

そんな時だったと思う。
父が、件の言葉を告げたのは。
< 244 / 249 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop