夜をこえて朝を想う
第1話

side S

「ねぇ、部長…ご飯連れてって下さいよーぅ。」

「あー、はは。今めちゃめちゃ忙しい。またね。」

いや、実際忙しかった。

でも、それ以前にミエミエだ。

そのまたもっと以前に、お前、彼氏いるだろ。

そのまたもっと、もっと以前に…タイプじゃない。

次から次へと、何とか誘いだそうとする。

俺というより、この同業他社より頭1個分ほど出た会社が、益々業績を伸ばし…

そこの会社で…まぁ、自分で言うのも何だが

いわゆる“有望株”なんだろう。

会社に取っても、女に取っても。

元々、色々と鋭い方だ。

鋭いというか、結局はよく見ているということだろう人を。

社員数の多いこの会社では…社内恋愛を経て結婚する人も少なくない。

逆に…人に言えない関係も。

何となく分かる。俺が好きなのか、俺の役職が好きなのか。

一部の女子の間では、ちょっとした意地みたいになってるんじゃないか、誰が落とすか。…俺を。

勘弁だな。

社内は避けたい。

逆に、微笑ましい想いを抱えてる奴なんかは

わざと食事に誘って…くっつけたりした。

そんなのの方が楽しいし、傍観してられる。

だけど…そうだな。

そろそろ、自分の事を考えてもいい頃かもしれない。

仕事は忙しいが、そんな事を思う余裕も出てきた。

何より、疲れていたのかもしれない。

癒されたい。

社内は避けたい。というか、誰かに落ちるのも…面倒くさい事になりそうだし

その面倒くささを受け入れまで、そう思う人が居ないのも事実だ。

ちょうど、その頃だった。

うちの、システム全般を頼んでいる会社の担当者から

「清水部長、こちらの担当者をもう一人増やそうと思ってまして…次回、連れて来ます。」

「ああ、そうか…君の所、人数少ないもんな。君も…うちにばっかり時間割けないか。」

「いえ、割きますよ、いくらでも。…ちなみに、僕より先輩が来ますから、きっとお役に立てると思います。あー…ただ…。」

そこで、彼は言葉を濁した。

彼の会社は全体的に若く、彼も新卒かと思うくらいの時にうちの担当になった。

実際は、この会社に転職してきてすぐだった。

パッと目を惹く

ものすごい…イケメンってやつだ。

誰が見ても。

【吉良凌平】彼が来た時だけは…俺でさえそっぽを向かれるほどの…

綺麗な男だった。

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