クールな弁護士の一途な熱情
1.運命
眩しい太陽。
蝉の声。
窓から入り込む心地よい風。
目で耳で、肌で夏を感じるたびに思い出すんだ。
“彼”と過ごした短い夏の日のこと。
もう遠い彼方の、恋のことを。
5月上旬の東京、西新宿にあるオフィス街。
桜もすっかり散り緑が色づくその街では、空に届きそうなほど背の高いビルが建ち並び、沢山の人が足早に行き交っている。
その中のひとつ、とある高層ビルのフロアで、今日も私はオフィス内を忙しなく駆け回る。
「入江チーフ、データ送ったので確認お願いします」
「外線2番、入江チーフにお電話きてます」
「あれ!入江チーフいますか!?急ぎで確認したいことがあるんですけど」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね!」
ひっきりなしに名前を呼ばれ、電話に出て手短に会話を終え、社員の確認事項を聞いて、パソコンのデータを確認する。
もはやいつものことだけれど、今日も朝からずっとこんな調子で忙しい。
だけど、この慌ただしさが嫌いじゃない自分がいる。
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