紫陽花のブーケ
Prologue

薄曇りの空の下、微かな音がやむことはない

窓から見える街の色もどこかくすんでいるようだと感じるのは
降りやまぬ雨のせいばかりとは言えない

先程買ってきた紫陽花の鉢植えを窓辺に据えてみた

今は薄い水色のそれは、だんだん青が濃くなって藍色へ、
それから淡紅色へと変化するそうだ

朗らかな花屋のおじさんに勧められるまま持ち帰った

たった一鉢だけど、そのおかげで
あまり物もない殺風景な部屋が、少しは人の住むそれらしくなった気がする

そんな些細なことで、少しだけ気分は晴れた……と思うことにする

時間が経つほど失ったものの大きさを、実感してしまう毎日に埋もれないように

喪失を分かっていて、それでも決めたのは自分

後悔しない為にもそろそろ本腰を入れて踏み出さなきゃ


体が動けるうちに、働き口だけでも確定しよう

もうあの日々には戻れないのだから
いつまでもめそめそフラフラしてちゃいけないよね?


―――あなたもそう思うでしょ?


前を向いて

共に幸せになるため

あなたと生きていく



たぶん、きっと

あの人も、

私とあなたの幸せを

同じくらい願ってくれていると思うから……



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